宇宙食の歴史と発展、そして未来

こんにちは、外科医の後藤です。

今回は「宇宙食」についてのお話です。「食べる」ということは、医学以前に最も基本的な生命維持活動ですからね。

宇宙食の歴史と発展

有人宇宙飛行が始まったのは1960年代からなので、すでに50年以上前。その当時の宇宙食といえば、歯磨きのチューブのような味気ないものでした。それから技術の進歩により、最近では非常に多彩なメニューが考案されるようになりました。例えば、レトルト食品やフリーズドライ食品(スープ、ライス、スクランブルエッグなど)、そのまま食べるもの(乾燥フルーツ、ナッツ、クッキー、ロールパンなど)、新鮮食品(リンゴ、オレンジ、バナナ、ニンジン、セロリなど)が食べられるようになっています。

地上で食べているほとんどのものが宇宙で食べられるようになりましたが、水分や小さなカスが飛び散らないよう、飲み物はパックでストローを使ったりなど形態や食べ方には注意が必要です。2005年に野口総一宇宙飛行士が国際宇宙ステーションで仲間の飛行士にふるまった「宇宙ラーメン」は大好評だったそうですね。

スペースシャトル・国際宇宙ステーション時代の宇宙食の例               出典:ファン!ファン!JAXA

 

そして近年の宇宙ベンチャー隆盛の流れを受けて、「宇宙食」を創り出すことを目的とした動きも始まっています。その代表格である「Space food X」は、2040年には月面に1000人が居住し1万人が訪問する時代が来るとして、宇宙食料マーケットは数千億円の市場ポテンシャルを秘めていると考えています。

月面や火星などの惑星では、食料を作るための水も酸素ももちろん十分ではありません。そこで鍵となるのが「日本の強みの技術と文化」であるとし、藻類培養や細胞培養肉、植物工場から自動収穫ロボットにアバタ―といったアイテムまで活用し宇宙空間でおいしい食事を生み出そうとしています。

宇宙で人類が居住するには「資源循環型少量生産システム」を備えた究極の循環社会が必要であり、これは地球でのSDGs(持続可能な開発目標)達成につながるとしています。宇宙食マーケットが地球の食糧問題の解決に繋がれば、素晴らしいことですね!

月面居住空間での食事のイメージ図    出展:Space food X

 

資源循環型少量生産システムのイメージ図    出展:Space food X

 

宇宙でのヒトの味覚の変化

「宇宙で暮らしても地球と同じ美味しいものを食べたい!」というのは当然だと思います。では、宇宙に行くと人の味覚は変わるのでしょうか

味覚とは舌の表面にある「味蕾(みらい)」という、甘味・塩味・酸味・辛味の4つに対する感覚受容体により成り立っています。宇宙空間では前回お話した「体液シフト」によって顔がむくみます。むくんだ顔は重く冷たい感触で、鼻が詰まった感じがあり嗅覚低下を来すそうです。それによって味蕾が効果的に働かず、味覚が落ちるとされています。そのため濃い味付けやスパイシーな味を好むようになると言われますが、金井宣茂飛行士は実際にはNASAの宇宙食は美味で味の薄さなど特に物足りなさを感じることはなかった、とコメントしています。

また、宇宙空間での食事への影響として「閉鎖環境」であることが考えられます。次回以降にお話ししますが、広い宇宙に出ても宇宙ステーションや将来的な月面居住モールは「閉鎖空間」に違いありません。閉鎖空間で単調な生活が続くと、飽きが起こるために食のメニューや味の変更を求めるようになることが、南極基地においても実証されているそうです。私も経験がありますが、予備校暮らしの受験生時代は楽しみが食事くらいだったことを思い出すと、納得いくかもしれませんね。

先月、月面×フード×マーケティングのミーティングが日本橋で開催されました。「2040年に月面で食べたいものは?」という話題に、パネリストからこんなユニークな答えが出ました。

  • 月の地ビール (月面には水があり、植物酵母が作れる)
  • やっぱり餅つき(月のウサギから発想?)
  • 地球 ! (を食べる画像をインスタグラムに載せたい)

などなど・・

【パネルセッション②】月面×フード×マーケティング~人類は月で何を食べるのか、食が月面ビジネスをリードする?~

2019.9.13 月面×フード×マーケティング 会場にて パネリストの皆さん

 

いずれにしても「食」はいかなる場所でも人間が生存するうえで必須の行為であり、また人生における「楽しみ」としての要素も強く持っています。これから先、どんどん美味しい宇宙食が出てくるでしょう。「宇宙に暮らすとき、何を食べたいか」について皆さんも考えてみませんか?

参考文献:

宇宙医学 マキノ出版

Space food X ホームページ

ファン!ファン!JAXA

JAXA宇宙飛行士 金井宣茂 公式ブログ

投稿者プロフィール

後藤正幸
本業は脳神経外科医。日々の臨床に力を注ぐ一方、「宇宙の力で医療を変える」ことを目標に活動中。一般の方向けに、宇宙医学のわかりやすい解説と発信を目指している。

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