もし衛星がハッキングされたら?〜宇宙×セキュリティの最前線〜

2026年4月22日、ABLab主催の宇宙ビジネス入門・交流イベントが開催されました。今月のテーマは「もし衛星がハッキングされたら?〜宇宙×セキュリティの最前線〜」。ゲストに、スカイゲートテクノロジズ株式会社 宇宙防衛事業部 宇宙サイバー戦略統括の間下義暁(ましたよしあき)氏をお迎えし、宇宙とサイバーセキュリティの接点について深く語っていただきました。
スカイゲートテクノロジズは、「存続可能性に関する課題を解決する」をミッションに掲げる日本発の防衛テックスタートアップです。宇宙・サイバー・電磁波という現代の安全保障の最前線領域でソフトウェアを軸とした革新的なソリューションを開発・提供しており、防衛領域向けの統合指揮統制プラットフォーム「Skygate JADC2」や企業向けゼロトラストセキュリティ「Cygiene」など、国家から企業まで幅広い「守り」を担っています。
間下氏は警視庁での国際テロ対策・サイバー攻撃対策を皮切りに、大手監査法人・大手金融機関を経てJAXAに転じ、2023年のJAXA大規模サイバー攻撃対応を最前線で指揮した経験を持ちます。
聞き手はABLab代表理事の伊藤真之。東京・日本橋の「X-NIHONBASHI BASE」にて、会場は満席となり、オンラインからも多くのメンバーが参加。入門イベントとしての位置づけながら、会場からは専門性の高い質問が相次ぎ、最前線の知見が飛び交う濃密なセッションとなりました。
スカイゲートテクノロジズ株式会
https://www.skygate-tech.com/
トーク内容のご紹介
宇宙セキュリティの対象は「衛星」だけではない
「宇宙セキュリティ」と聞いて多くの人がイメージするのは、衛星本体をハッキングして機器を誤作動させるシーンではないでしょうか。しかし間下氏によると、その対象ははるかに広範です。衛星本体に加え、衛星に指示を出す地上管制システム、それに繋がるITネットワーク、そして宇宙業界で働く職員のPCに至るまで、複数のゾーンに分けてセキュリティを考える必要があるといいます。
「宇宙システムはインターネット非接続のクローズドなものが多いため、サイバーセキュリティに加えて物理的な出入り管理も含めた対策が必要です」と間下氏は説明しました。インパクトの観点では衛星本体や地上管制が狙われる場合が最も深刻ですが、件数という観点では、地上のITシステム、つまり職員のPCや業務ネットワークへの攻撃が圧倒的に多いとのことです。

JAXAが直面したサイバー攻撃の実態
宇宙業界のサイバー攻撃事例として最も記憶に新しいのが、2023年のJAXA大規模サイバー攻撃です。
「攻撃者はJAXAの内部に侵入し情報収集を図りました。ただし、ロケット発射や衛星管制に関わる機密情報への到達は防ぐことができました」と間下氏。10ヶ月にもわたるAPT(高度持続的脅威)への対応は壮絶なものです。JAXAへの攻撃件数は一般企業の約5倍にのぼるとされており、宇宙業界が国際的な情報収集の標的になっていることを裏付けています。
海外では、紛争の文脈でサイバー攻撃により衛星サービスが停止した事案も確認されており、宇宙安全保障はもはや机上の話ではなく現実の課題となっています。攻撃の目的の多くは技術情報の窃取であり、宇宙開発競争における優位を確保しようとする国家の意図が背景にあるとみられます。
サプライチェーンリスク——「うちは無名だから大丈夫」は通用しない
宇宙ベンチャーやサプライヤー企業の多くは、「自社はまだ無名だから攻撃されないだろう」と考えがちです。しかし間下氏は「サプライチェーンリスク」の観点からこの認識を一蹴しました。
「大きな宇宙機関ほど、セキュリティ投資を重ね、簡単には突破できません。だからこそ攻撃者は、その宇宙機関に納入しているサプライヤーを狙うのです」と間下氏は指摘します。サプライヤー1社を経由することで、本体の重要情報に到達できる可能性があるためです。発注側の企業が「取引先に対策を求めているから自社は問題ない」と考えることも危険であり、サプライチェーン全体のリスク管理は発注者・受注者双方の責任であると強調しました。

ガイドラインの活用——まず経産省資料から
具体的にどこから対策を始めればいいのでしょうか。間下氏が最初の一歩として強く推薦したのが、経済産業省が公開する「民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドライン」です。
「約100ページありますが、セキュリティの専門知識がなくても読める内容です。攻撃事例の紹介から、各セグメント(衛星本体・地上システム・データ提供・開発)ごとの対策方針まで体系的にまとめられており、経営層にも参考になる構成です」と間下氏。検索すれば経産省の公式サイトから無料でダウンロードできます。
海外ではNASAの「Space Security Best Practices」や、Aerospace Corporationが提供する宇宙システム版攻撃フレームワーク「SPARTA」なども参考になります。SPARTAはサイバーキルチェーンの宇宙版で、どの段階で防御すれば最終的な被害に至らないかを設計する上で有用です。省庁ごとにガイドラインが乱立する場合は、自社の業種に最も近い省庁のものを優先的に参照するのが実践的とのことです。
民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドライン | 経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sangyo_cyber/wg_seido/wg_uchu_sangyo/20240328_report.html
会場からは鋭い質問が続出
質疑応答では、会場・オンラインを問わず次々と手が挙がりました。
宇宙特有のセキュリティリスクとして、通信ジャミング(電波妨害)による制御不能化や、認証を突破した場合の衛星乗っ取りリスクが挙げられました。「通信端点を限定し、暗号化・認証を徹底することが基本的な対策になります」と間下氏。衛星へのセキュリティソフト適用については、制御系の処理遅延が許容されないため通常のアンチウイルスソフト導入が難しいという課題がありますが、通信を横断的に監視するNDR(ネットワーク検知・対応)技術や軽量なリアルタイム対応ソフトの活用が進んでいると紹介されました。
宇宙領域への参入を目指すセキュリティ企業に向けては、「AIセキュリティなど特定の専門性を磨き、宇宙機関と取引する企業からの協働要請を獲得するルートが現実的」というアドバイスも。直接のコネクションがなくても、技術力と課題解像度の高さが道を開くと励ましました。

セキュリティはブレーキではなく、助手席の存在
セッションの締めくくりに、間下氏はセキュリティへの信念を語りました。「セキュリティはよく『ブレーキ』と言われますが、私はそう思っていません。ドライバーの隣に乗って『そっちへ行くと危ないですよ』と声をかける助手席の存在だと思っています」という言葉は、会場に深く響きました。
間下氏が宇宙業界に戻った理由を問われると、「夢を追いかけた方が人生楽しい」という一言。宇宙業界の人々が持つ挑戦への熱意と責任感に強く惹かれているとも語り、温かい拍手が送られました。
まとめ
今回のセッションを通じて、宇宙セキュリティが「衛星の問題」ではなく、宇宙に関わるすべての企業・個人が直面しうる課題であることが明確になりました。特に「地上のIT・サプライチェーンが主な攻撃対象」という指摘は、宇宙ベンチャーや関連企業にとって明日から意識を変えるきっかけになるものでしょう。
対策のとっかかりとなる公的ガイドラインは既に整備されており、まず経産省のガイドラインを読むことから始められると間下氏は強調しました。セキュリティは決して難解な専門家だけの世界ではなく、経営層を含めた組織全体で取り組むべきテーマです。
「世界を変えるのではなく、世界が変わらなくていいようにする」というスカイゲートテクノロジズのキャッチコピーが示すように、変革の担い手を守り、夢を追う人々の挑戦を支えるセキュリティの存在意義を、改めて感じたひとときでした。

宇宙ビジネス入門・交流イベントについて
宇宙ビジネス入門・交流イベントは、宇宙ビジネスに関心を持つ人が集う交流イベントです。宇宙ビジネスの実践コミュニティ「ABLab」が運営し、宇宙の仲間作りを支援しています。
■タイムテーブル
18:40 開場
19:00 オープニング・交流会
20:00 トークセッション
21:00 再び交流会
22:00 クロージング
■今回のトークセッション
テーマ:もし衛星がハッキングされたら?〜宇宙×セキュリティの最前線〜
ゲスト:間下 義暁 氏 スカイゲートテクノロジズ株式会社 宇宙防衛事業部 宇宙サイバー戦略統括
聞き手:伊藤 真之 一般社団法人ABLab 代表理事
当イベントへの参加方法
次回以降のイベントに参加したい方は、ABLabのPeatixをフォローしてください。イベント公開時に通知を受け取ることができます。
投稿者プロフィール

- 代表理事
- 1983年、福島県生まれ。IT業界で約10年マーケティングの経験を積んだ後、ファンブック株式会社を設立し独立。2018年、当時小学1年生の息子と宇宙の勉強を始めたことがきっかけで、宇宙ビジネスの潮流を知り、半年後に宇宙ビジネスコミュニティ「ABLab」を創設。「地球上のすべての業界を、宇宙産業に巻き込む」というビジョンを掲げ、異業種から宇宙に挑戦する人や企業を支援し、事業創出と人材輩出に取り組む。
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