【第3回宇宙開発利用大賞】受賞事例の超簡単な解説
ABLabの伊藤です。「第3回宇宙開発利用大賞」の表彰式に参加してきました。どんな事例が表彰されたのか、僕のような宇宙ビジネス初心者でもわかるよう超簡単に解説します。
【経済産業大臣賞】超小型衛星群による毎日全地球観測インフラ「AxelGlobe」の構築
株式会社アクセルスペース
地球観測インフラ「AxelGlobe」とは、50機の超小型衛星で世界中の陸地を毎日撮影し、その画像データを提供するプラットフォームです。利用用途には無限の可能性があって、まさにアイデア次第です。毎日撮影というのがポイントで、日々起きる小さな変化も検出可能ですし、機械学習によって何らかの付加価値を生むこともできるのかもしれません。例えば、人口分布、自動車の量、駐車場空きスペース等からシェアリングカーの最適な配置を導き出したりとか。桜の開花状況、散り具合、混み具合を画像処理で判断して、条件に合うお花見エリアを検索したりとか。ちょっと考えただけでもアイデアは色々出てきますね。
【総務大臣賞】宇宙天気予報システムの開発と運用を通じた社会への貢献
国立研究開発法人情報通信研究機構
僕も知らなかったのですが、宇宙にも天気があり、衛星の運用などには天気予報の情報を必要とするそうです。例えば、太陽の表面で爆発が起きる太陽フレアは、磁気嵐を起こし、人工衛星のトラブルやGPSの誤差を生じさせるなど、大きな問題に繋がる可能性があります。そこで、太陽フレアの発生を人工知能で予測するモデルを開発し、予報の的中率を大幅に向上した本事例が評価されています。
【外務大臣賞】国際連合と連携した宇宙能力構築のための留学生事業
国立大学法人九州工業大学
九州工業大学では国連と連携し奨学金プログラムを作り、宇宙工学において5年間で26カ国から71名の留学生を入学させました。宇宙産業分野はまだまだ人材不足ですから、人材を育てたり支援したりするような取り組みが大事という事ですね。
【文部科学大臣賞】無重力による筋萎縮に有効な機能性宇宙食の開発
徳島大学 二川 健 氏
無重力の環境下では筋力の低下が問題としてありますが、それを機能性食品によって補おうというものです。宇宙飛行士は筋力低下を防止するため宇宙で毎日2時間以上の運動が必要になるそうです。そこで、こういった食品による補助があれば、運動の時間を短縮できるかもしれませんね。また、宇宙だけでなく、寝たきりの予防にも有効とのことです。
【農林水産大臣賞】衛星情報を利用したブランド米の生産支援
地方行政独立法人青森県産業技術センター 境谷 栄二 氏
青森県農林水産部 井上 貴裕 氏
地方行政独立法人青森県産業技術センター 小野 浩之 氏
衛星画像から適切な収穫時期を見極めたり、肥料の使用量を最適化したり、含有成分の品質を高めたりできるそうです。宇宙利用といっても、こういうのって農業のプロフェッショナルでないとわからないことですよね。それゆえに、宇宙利用は様々な産業分野とコラボレーションが重要なんですね。農業だけでなく、地球上の様々な業種において、宇宙が利用できるかもしれないのです。
【国土交通大臣賞】みちびき対応多周波マルチGNSS高精度受信機及びIMUの開発
マゼランシステムズジャパン株式会社
高精度な測位用の受信機。つまり、現在地をリアルタイムに高い精度で把握できるようにするものです。これをトラクターに搭載することによって、衛星を利用した自動運転が可能にしました。これってリアルタイム性と精度次第では、ドローンや自動車にも応用可能なはずで、可能性すごいんじゃないかと感じますね。
【環境大臣賞】沿岸域生態系保全のための広域な藻場・干潟分布状況の把握
三洋テクノマリン株式会社 北野 慎容 氏
一般財団法人リモート・センシング技術センター 佐川 龍之 氏
こちらも衛星画像の利用事例。藻場や干潟の状況把握が、衛星画像を利用すれば簡単にできるぜという話。衛星画像の利用ってわかりやすいし、他にも利用用途ってたくさんありそうですよね。僕と一緒に考えてみませんか?
【宇宙航空研究開発機構理事長賞】膜展開式軌道離脱装置の開発および宇宙実証
株式会社中島田鉄工所
国立大学法人東北大学 桒原 聡文 氏
これはちょっと難しいのですが、ごく簡単に解説します。衛星って利用終了したものをそのまま残しておくと、宇宙ゴミになっちゃって、他の衛星との衝突リスクがあるので問題になってるんですね。そこで、使い終わったら、衛星軌道上から離脱させる必要性があるのです。今回開発されたのは、その離脱装置です。既に軌道離脱の実証実験に成功していて、衛星の軌道離脱装置として標準利用される事が期待されてます。おそらく、軌道離脱手段を持たない衛星は打ち上げ禁止というような法整備も進むと思うのです。
【内閣府特命担当大臣(宇宙政策)賞】宇宙の視点から、命を守る~GPSとスマホの山岳地帯での活用~
株式会社ヤマップ 春山 慶彦 氏
宇宙利用というとなんか未来的な印象ですが、みじかな所で普段から利用しているGPSも衛星を利用したシステムであって、宇宙利用の一つなんですよね。今回評価されたのは、GPSと山の地図を組み合わせた登山アプリ「YAMAP」です。スマホの電波が届かない山の中でも、GPSで現在地がわかるわけです。そりゃ便利です。遭難防止に大きく貢献しますね。
【内閣総理大臣賞】ほどよしプロジェクトによる超小型衛星産業化・国際連携への貢献
東京大学 中須賀 真一 氏
ほどよしプロジェクトチーム
超小型衛星の開発と様々な利活用が評価されました。超小型というのがどれくらいのサイズかというと、約50kg程度です。僕の体重よりちょっと軽いくらいですね。大幅な低コスト化を実現し、2年で開発、費用は3億円ほど。素人の僕の金銭感覚ではまだまだ高いなぁという印象ですが、今の宇宙産業においてこれはすごい飛躍なのです。ある程度大手の企業なら手が届く費用感ですので、衛星の利活用は大きなビジネスチャンスがありますね。
まとめ
以上、「第3回宇宙開発利用大賞」の表彰事例を紹介しました。
どのような研究、取り組みが評価されているかを知ることで、今現在の宇宙開発利用の状況や課題が見えてきます。僕としては、まずはこんなところから、宇宙ビジネスの研究を始めてみようと思ってます。
じゃあ、「今時点で利用できる衛星データってどんなものがあるんだろう?」「衛星画像って他にはどんな使われ方があるんだろう?」「衛星でできることって他にないかな?」とか、疑問がますます増えていくので、今後その辺を調べてレポートしていきますね。
ではでは。
投稿者プロフィール
- 1983年、福島県生まれ。IT業界で約10年マーケティングの経験を積んだ後、ファンブック株式会社を設立し独立。2018年、当時小学1年生の息子と宇宙の勉強を始めたことがきっかけで、宇宙ビジネスの潮流を知り、半年後に宇宙ビジネスコミュニティ「ABLab」を創設。「地球上のすべての業界を、宇宙産業に巻き込む」というビジョンを掲げ、異業種から宇宙に挑戦する人や企業を支援し、事業創出と人材輩出に取り組む。