1時間でわかる アルテミス計画超入門

2026年6月の「宇宙ビジネス入門・交流イベント」では、合同会社ムーン・アンド・プラネッツ 代表の寺薗淳也氏をゲストに迎え、「1時間でわかるアルテミス計画超入門」をテーマにトークセッションを開催しました。
寺薗氏は、もともと月・惑星探査の研究者として月面の地質や地形を研究し、JAXAでは月探査衛星「かぐや」や小惑星探査機「はやぶさ」の計画に携わった経験を持つ専門家です。現在は宇宙開発の広報として、講演やイベント、メディア出演を通じて、月探査や月面開発が私たちの社会や生活にどのようなインパクトを与えるのかを伝える活動をされています。
聞き手は、ABLab代表の伊藤真之。宇宙ビジネス入門者にもわかりやすい形で、アルテミス計画の基礎から、5年後・10年後・15年後にどのようなビジネスチャンスが生まれるのかまで、ビジネスの観点から丁寧に掘り下げていきました。
当日は日本橋の会場参加に加え、ABLab会員向けにオンライン配信も実施。後半の質疑応答では実践的で鋭い質問が相次ぎ、月面ビジネスの未来について会場全体で考える、熱量の高い時間となりました。

なお、イベントで使用した講義資料は、ABLab会員限定で後からでもダウンロードいただけます。
トーク内容のご紹介
アルテミス計画とは何か?アポロ計画との決定的な違い
トークの冒頭では、まずアルテミス計画の基礎が共有されました。
人類が最後に月面に降り立ったのは、今から53年半前のアポロ計画。アポロは当時の米ソ間の威信競争として、すべてを国家が担う形で進められたため、目的を達成した後は関心が薄れ、6回の着陸で事実上打ち切りとなりました。
これに対してアルテミス計画は、持続可能(サステイナブル)な月面へのアクセスを目指し、将来的には火星へのアプローチも見据えたプロジェクトです。アメリカ一国ではなく日本やヨーロッパとの国際協力で進めること、そして民間の力を最大限に活用することが大きな特徴だと寺薗氏は語りました。
この『民間』というキーワードが重要であり、国が民間に発注することで大きな市場が生まれており、ロケットや月面着陸船を開発する企業は、まずこの市場を取りに行こうとしているのです。

アルテミス2号機の成功と、変わり続ける計画
続いて、計画の進捗状況が紹介されました。2026年4月1日に打ち上げられたアルテミス2号機は、4人の宇宙飛行士が月を周回して帰還する初の有人ミッションでした。地味に見えるミッションながら、宇宙船とロケットの健全性を確認できた大きなステップであり、寺薗氏は「個人的にものすごい成果だと思っている」と評価しました。
人間が地球から最も遠くまで飛行した記録(約40万km)を更新したこと、初めて月に向かった女性・黒人・カナダ人といった多様な宇宙飛行士が参加したことも、大きな意義として挙げられました。
一方で、アルテミス計画の特徴として「計画変更が頻繁に起こること」も強調されました。月周回ステーション「Gateway」構想は休止となり、月面へのアクセス方法は地球軌道上で月着陸船をドッキングさせる方式へと変更。さらに肝心の月着陸船は、SpaceXのStarshipかBlue OriginのBlue Moonか、どちらが採用されるかもまだ決まっていない状況です。
「昔変わったから、今後も変わりうるという前提で考える必要がある。アルテミス計画に沿ったビジネスをするなら、変化をしっかりウォッチし、追随していかなければならない」という指摘は、参入を考える上で重要なポイントです。
日本はアルテミス計画の中核を担うポジションにいる
日本の関わりについても詳しく語られました。日本はアルテミス合意の最初の8カ国「ファーストエイト」に名を連ねており、計画の中で非常に重要なポジションを占めています。
2024年4月にはNASAと文部科学省の間で、日本人2名を月面に着陸させる覚書が締結されており、寺薗氏は「2028年か2029年には日本人が月面に降りている可能性が高い」と予測しました。
さらに、JAXAとトヨタ自動車が開発する有人月面与圧ローバー「ルナクルーザー」は、NASAの月面基地構想の重要なピースを埋める存在です。宇宙服なしで月面を移動できる快適性は一度体験したら手放せなくなるはずで、日本企業が強みを持つインフラ技術が、アルテミスの先にある月面滞在の中核技術になる可能性が高いと語られました。

月面ビジネスは3つのフェーズで考える
本セッションのメインテーマである「ビジネス機会の見取り図」は、3つのフェーズに分けて解説されました。
フェーズ1(〜5年後、2031年頃まで)は輸送インフラの構築期。月に人やモノを送り込む輸送が中心で、通信網の整備も重要な要素です。月と地球の間は光の速度でも片道1.25秒、往復2.5秒のタイムラグがあるため、それを織り込んだインフラ開発が必要になります。月面での位置を知るための「月面GPS」の構築も、この段階の課題として挙げられました。
フェーズ2(〜10年後、2036年頃)は基地開発・運用と資源実証の段階。月面基地の建設に加え、水資源の利用、火星行きロケットのための金属資源調達、月の砂からのウラン抽出といった資源抽出技術が重要になります。この段階でもNASAが民間に委託する構図は変わらず、民間企業が主役になると予測されました。
フェーズ3(15年後、2041年頃以降)は月面経済の形成期。月面観光や資源採掘、滞在サービスなど多様なビジネスが展開され、数百人規模の月面滞在者が発生すると想定されます。6分の1重力を活かしたスポーツやリハビリ医療、月面での金融・保険といった、今すぐには想像しにくいサービスも視野に入ってきます。
「フェーズ1とフェーズ2では必要な技術領域が全く変わる。フェーズ1の印象に引っ張られると間に合わない。フェーズ2以降を見据えて今から動くことが大事」という整理は、5年・10年・15年という言葉の重みを実感させるものでした。


日本企業の強みが生きる時代が来る
参入機会については、日本企業のポテンシャルの高さが繰り返し語られました。どんな場所にもダムや建機を届けてきた建設土木、エネルギー供給、ロボティクス、遠隔医療、国際宇宙ステーション「きぼう」で培った生命維持(ECLSS)技術、植物工場など、日本が得意とする分野の多くが月面インフラに直結します。
伊藤からは、3月のイベントに登壇いただいた栗田工業様が、国際宇宙ステーションでの水処理技術を活かして月面での水資源開発に挑戦している例も紹介されました。
もちろんリスクもあります。スケジュール遅延の常態化、方針転換、予算削減の可能性は常について回ります。しかし、寺薗氏と伊藤の議論では「地球のビジネスにも不確実性はたくさんある。AIがこれほど急速に発展すると誰が予想できたか。何が起こるかわからないからこそ、自分の強みをぶつけましょう」と語られ、「月面開発はむしろロードマップが示されている、未来が見えやすい領域である」ことが強調されました。
「月を自分事として捉えれば、必ず参入のチャンスはある。自分の強みを月面に置いたときにどう生かせるかをシミュレーションしてほしい」というメッセージが、セッションの核心だったように思います。

会場からは鋭い質問が続出
後半の質疑応答では、会場・オンライン双方から実践的な質問が相次ぎました。入門イベントではありますが、質疑応答の時間だけは、非常にマニアックな領域まで深掘りされます。
マネタイズの課題については、「担当者レベルでは賛同を得られても、上層部でマネタイズの説明に引っかかることが多い。月面ビジネスも他のビジネスと同様、夢だけでなく現実的なビジネスプランが不可欠」という経験に基づく指摘があり、寺薗氏も「甘くはないが、地上のビジネスも同様。であれば、より大きなチャレンジに挑む価値がある」と応じました。一方で「宇宙業界はプレイヤーが圧倒的に足りておらず、ニーズとマッチすれば必ず仕事はある」という希望のあるメッセージも共有されました。
ルナクルーザーの輸送方法については、設計がSpaceXのStarshipのスペックに依存しており、そのスペックが不安定なため開発側も苦心しているという実情が語られました。また、アルテミス合意に参加していない中国との権益問題は、国連の宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)で議論中ながらなかなか決まらず、「中国の着陸船がアルテミスの着陸船のすぐ近くに降りるケースは想定されていない」という率直な回答もありました。
月面での滞在期間については、放射線の影響により1〜2ヶ月程度が現実的で、国際宇宙ステーションの半年交代よりも頻繁な人員交代が必要になるとの見解が示されました。それだけ多くの人が月に行き来する必要があるということでもあります。
このほか、月面での電波利用の規制、月の裏側での通信を担う中継衛星の構想、月条約の現状など、専門的な論点にも話題が及び、参加者からの補足情報も飛び交う双方向性の高い質疑応答となりました。
入門編でありながら、現実と夢のバランスを考える場に
今回のセッションは「超入門」と銘打たれたものでしたが、会場には長く宇宙業界に関わるベテランから、これから参入を目指す方まで幅広い参加者が集まり、夢と現実的な視点の両方が交差する議論となりました。
「夢がないとできないが、夢を見すぎるのも怖い。そのあんばいをちゃんと考えるべき」という会場からの言葉と、「入り口でとどまっている人には手を差し伸べる必要がある」という寺薗氏の言葉は、まさにABLabというコミュニティの役割を表しているように感じます。
まとめ
今回のトークセッションでは、アルテミス計画の基礎から、5年・10年・15年というフェーズごとのビジネスチャンスまで、月面開発をビジネスの視点で読み解く見取り図が示されました。
2040年に月面100人滞在というシナリオは、決して遠い未来の話ではありません。寺薗氏の「ここで『夢があっていいですね』という感想で終わったら僕の話は失敗。『これで儲けなきゃ』となったら成功」という言葉のとおり、今から準備を始めるかどうかが15年後の勝負を分けます。
日本はアルテミス計画への参加という「プラチナチケット」を持っています。このチケットをいつどう使うかは、挑戦する一人ひとりの知恵次第。ABLabとしても、月面ビジネスに挑戦する仲間を引き続き応援していきたいと思います。

宇宙ビジネス入門・交流イベントについて
宇宙ビジネス入門・交流イベントは、宇宙ビジネスに関心を持つ人が集う交流イベントです。宇宙ビジネスの実践コミュニティ「ABLab」が運営し、宇宙の仲間作りを支援しています。
■タイムテーブル
18:40 開場
19:00 オープニング・交流会
20:00 トークセッション
21:00 再び交流会
22:00 クロージング
■今回のトークセッション
テーマ:1時間でわかるアルテミス計画超入門
ゲスト:寺薗 淳也 氏 合同会社ムーン・アンド・プラネッツ 代表
聞き手:伊藤 真之 一般社団法人ABLab 代表理事
当イベントへの参加方法
次回以降の宇宙ビジネス入門・交流イベントに参加したい方は、ABLabのPeatixをフォローしてください。イベント公開時に通知を受け取ることができます。
投稿者プロフィール

- 代表理事
- 1983年、福島県生まれ。IT業界で約10年マーケティングの経験を積んだ後、ファンブック株式会社を設立し独立。2018年、当時小学1年生の息子と宇宙の勉強を始めたことがきっかけで、宇宙ビジネスの潮流を知り、半年後に宇宙ビジネスコミュニティ「ABLab」を創設。「地球上のすべての業界を、宇宙産業に巻き込む」というビジョンを掲げ、異業種から宇宙に挑戦する人や企業を支援し、事業創出と人材輩出に取り組む。
最新の投稿
イベントレポート2026年7月8日1時間でわかる アルテミス計画超入門
イベントレポート2026年6月13日宇宙ビジネスの展示会「第3回 SPEXA」にブースを出展しました
お知らせ2026年5月9日宇宙ビジネス・宇宙キャリアの無料相談会 〜宇宙ビジネス展示会SPEXAのABLab展示ブース内で実施〜
イベントレポート2026年5月4日もし衛星がハッキングされたら?〜宇宙×セキュリティの最前線〜

