THINK SPACE LIFEへの道のり ~Vol.2 中盤戦~

こんにちは、外科医の後藤です。

今日はTHINK SPACE LIFEへの挑戦記第2回、いよいよ自分たちの生命線となるアイデア出しがはじまるところからです。

宇宙飛行士の声を起点に考える暮らしをより良くするためのヒント集、Space Life Story Bookでは、宇宙生活を取り巻く環境について「微小重力」「閉鎖隔離環境」「リソースの制約」という分類に基づく様々な課題が挙げられていました。

通常ビジネスアイデアは課題発見から始まると思いますが、今回はすでに課題が複数設定されていますのでいいですね。

熟考の結果、自分たちの勝負テーマに選んだのは、「メンタルヘルスケア」分野の課題解決です。

宇宙では広大ですが人が生活できる空間は閉鎖環境であり、そこではストレスを発散したり、気持ちを切り替えたりする手段が極めて少ない。

生活は単調となり、地球から離れることにより自然が恋しくなるとの飛行士の方々の声が聞かれました。

ならばVRを使って宇宙で地球の自然体験をしてもらい、またその中で体力維持のためのフィットネスなどができたらどうか?

よいストレス解消になるのでは、という発想からスタートしました。

そのほか、ISS (Intrenational Space Station: 国際宇宙ステーション) 内の騒音を軽減できる新型のファンを3Dプリンタで作る、オンラインゲームとフィットネスを融合したエアロバイク、時短で口腔ケアができるリステリンタブレットなどのアイデアも出ましたが、最終的には五感を利用して地球自然を体感しリラックスを得る製品、という形にまとまってきました。

まず最初に行ったのは、プロジェクトメンバーのチーム分けでした。それぞれの感覚ごとに分けてアイデア出しを分担し、

A.視覚チーム、B.触覚・聴覚チーム、C. 香りチーム、D. プロセス・ソフトチームとしました。

各チーム数人のメンバーでmessengerグループを組み、まずは1週間アイデアを猛烈に発散させることを目指しました。

この段階ではもう、実現性などは度外視してとにかく思いつくままアイデアを出しまくる感じです。

数日に1回、各チームリーダーからプロジェクト全体Slackに、以下のような感じで作業進捗を示す内容が流れます。

:ロケット:チームD進捗状況:ロケット:

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★出そうとしてるアウトプット★
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・What:投影する映像の内容・テーマを何にするか
・How:上記をもとに、どのようなプロセスを抽出し、どのような演出するか
・Why:そのコンテンツが癒しに繋がるというエビデンス・理念など———————
★議論中のアイデア★
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【雄大な自然】
①渓流のある、霧の立ち込める森林
 …徐々に上流の源泉に近づいていく感じ
②風に揺れる草原、動物登場
③冬の荒野、夕焼け
④南の島の砂浜、快晴
 …ビーチから水中、深海へと進む感じ徐々に原点とか源流に戻っていくイメージで、それがリラックスの段階的導入につながるのでは?

〜How:どのように演出するか〜
・日替わり映像
  →1日の終わりの楽しみ
・パーソナライズ
  →香り、映像ともに癒されるものには個人差ある
  →各人のバックグラウンドに合わせる?
・YouTubeから好きなもの選ぶ
  →既存コンテンツでパーソナライズ可能           
・アバターロボット活用
  →家族、地元など親しんだものによる癒し、会話

〜Why:エビデンス・理念など〜
・禅の世界観
・マインドフルな状態「今ここ、に集中する」をつくりだせる空間
 →究極の癒し
 →重力から解放され、思考が解放される感覚。宇宙の環境を活用。
 →メンタルヘルスケアにも繋がるのでは———————
★課題★
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・ISS通信環境はオンライン動画視聴難しい
・いかにパーソナライズしつつ、一般化するか

:ロケット:チームA進捗状況 

小型ドーム内映像投影 

壁にプロジェクションマッピング

青空の見える窓のような照明、時間で色の変わる照明

オンラインリモート自然体験 

バーチャル熱帯魚水槽

大自然の中で運動できるVRアプリ

Magic Leap

大自然を体験できるVR

独自の新製品開発が難しい自分たちは、このような形で既存の市場製品を参考に、それらをいかに効果的に組み合わせるかを考えていきました。

1週間アイデアを発散しつくしたら、そこからいよいよ集束させる段階です。

ここで、一大イベントが持ち上がります。

8月13日に、THINK SPACE LIFE主催者であるJAXAの菊池優太氏に、ラボ内ミーティングで講演を頂く機会に恵まれました!

もちろん公平なお立場なので有利になるような情報を頂くことはありませんが、THINK SPACE LIFEの趣旨やISS内での生活の様子をわかりやすく説明して頂きました。

そしてまもなく…、最終アイデアとなるプロトタイプが生まれました。

それがこちら、自然映像と音と香りを同時に体験することができる、新しいタイプのウェアラブルデバイスです。

ISSでの使用を考慮して、他のクルーや空調システムに悪影響を与えないようにその場のみで香りの放出吸引を行うアロマデフュ―ザー、上下のない微小重力環境で映像が反転しないように頭の位置・向きと同期して映し出すプロジェクターなど、宇宙に特化した工夫が詰め込まれています。

デザイナーの力で、これまで奔放に散らばっていた全員のアイデアが集約された瞬間でした。

しかし、このまま一気に完成!となるほど新製品企画とは甘いものではありませんでした。

まだまだ次なる巨大な壁が、何枚にもなって自分たちの前に立ちはだかることとなります。

今回はここまで。

次回は、アイデアの試作機作成から本開発に至る道のりにおいて、資金や技術面での困難さに打ちのめされるストーリーです。

お楽しみに!

投稿者プロフィール

後藤正幸
後藤正幸
「宇宙に、医療を」目標とする脳神経外科医。医療分野での宇宙ビジネス創出を目指して、日々活動中。最新の宇宙医学研究を、多くの人に分かりやすく伝える発信を行なっている。