ABLab宇宙医療プロジェクトの現在

こんにちは、外科医の後藤です。

以前、我々ABLab宇宙医療プロジェクトのTHINK SPACE LIFEへの挑戦について4回の連載形式でお話しましたが、今回はその後プロジェクトの進捗と現状についてお伝えします。

プロジェクトメンバー数は続々と増えてきており、ますます張り切って日々の活動に取り組んでいるところです。

医療ヘルスケア分野での新たな宇宙ビジネス創出を目指す、現在のプロジェクトの取り組みについてお話します。

THINK SPACE LIFEへの挑戦から、企業コミュニティへの参画

2020年夏、宇宙生活と地上共通の課題解決を目指すJAXAのビジネスプラットフォーム、THINK SAPCE LIFEへプロジェクトを挙げて挑戦したことは、以前の連載「THINK SPACE LIFEへの道のり Vol.1-4」でお伝えしました。

結果が出たのは10月で、残念ながら我々の製品アイデアは今回のISS搭載候補品としては、採択されませんでした。

もちろん悔しい結果ではありましたが、同時に「宇宙生活での精神心理ストレス課題に対する、地球自然を体感できるプロダクト」というテーマにはまだまだ突き詰める余地がある!とも感じているため、次回以降を目指してまたアイデアを磨き直しているところです。

ちなみに今回のISS搭載候補品として選ばれたアイデアはこちら、どれも実現が楽しみなものばかりです。

THINK SPACE LIFEの第1回アイデア公募は終了しましたが、その後も宇宙生活と地上共通の様々な課題を解決するプロダクトの創出を目指して、12月にTHINK SPACE LIFE企業コミュニティがスタートしました。

ここには、宇宙生活や医療ヘルスケア分野での新規事業創出を目指す企業や研究機関が集まり、またJAXAはじめ有人宇宙事業における有識者の方々がメンターとなっていて、宇宙生活や医療ニーズについて直に現場の声を聞くことができます。

また、メンバー間の「共創」をコンセプトとして、企業間の垣根を超えた自由な話し合いが行える場所となっています。

各企業が持つ技術やアイデアを掛け合わせることで、宇宙生活に有用な新製品やサービスが生まれることが期待されており、共創に向けた勉強会やワークショップ活動が活発に進展しています。

自分たちは、医療者として宇宙医学や地上医療現場でのニーズ・課題提供をはじめ、プロダクトデザイン、事業コンサルティングなどプロジェクトメンバーの多彩な専門性を生かし、新たな価値を生み出せるようコミュニティに貢献していきたいと考えています。

なお、このことについては2021年1月15日の「宇宙ビジネスフォーラムinつくば」でお話をさせてもらっていますので、ぜひご覧ください(44分30秒くらいからです)。

一人でも多くの人を宇宙へ―世界の平和と豊かな地球への想い

ABLab宇宙医療プロジェクトは、「人の宇宙生活に必要な、あらゆるプロダクトを創る」ことをビジョンとして目指しています。

ではなぜ、医療者である自分が人の宇宙進出を目指して活動しているのでしょうか。

大きく2つ、理由があります。

1つは、多くの人々が宇宙から地球を見ることにより、国家・民族・宗教といった人々の心のボーダーを超える、劇的な価値観の変化が起こると信じているからです。

地上に暮らす私たちの多くは、平面的な視点でしか物事が見えていないために、お互い自分と異なる部分がどうしても目につくのではないでしょうか。

しかし実際に、宇宙から地球を見た宇宙飛行士の多くは、「宇宙からは見た地球には地上で感じるような違いはまったく目に入らず、国境というものは存在しない」と話しています。

地球上で暮らしている人間は、人種・民族の違いはあってもすべて同一種に属する生き物なのだという視点が多くの人にとって自然な事実となれば、これまで「国家」として物事が進むことが当たり前だった社会から、「惑星地球」へのパラダイムシフトが生まれる。

それによって、「自分と異なる」という理由での対立や争うことのない、平和な世界をつくることにつながると信じています。

そしてもう1つは、宇宙から地球を見ることで、地球が生命が暮らせるただ一つの場所であるという奇跡的な事実を、圧倒的な実感を持って体感することができると考えているからです。

地球環境保全への意識は世界的に高まっては来ていますが、現在の人類活動による圧倒的なエネルギー消費を継続すれば、成長の前に地球がもたなくなることが厳しい現実です。

宇宙という生命が生きることを決して許さない世界において、唯一の例外である地球を何としてもこのまま残していかなくてはならない。

それには、どれだけ「地球を大切に」と言われるよりも、実際に地球という巨大な生命システムを目の当たりにする、体感することこそが最も心を強く動かすのではないかと考えています。

自分と異なる相手と争うことのない世界と、豊かな地球環境を守り次世代につなぐこと

いずれもこれまで実現に向けた数えきれないほど多くの人々の努力が続き、それでも今なお人類はそれらを成し遂げられずにいます。

だからこそ、子どもからお年寄りまで世界のあらゆる人たちが宇宙から地球を見て欲しい。

自分たちも含めて、世界中の誰もが宇宙に出られる時代が近づいた、今こそが歴史上大きな転換点になり得ます。

一人一人の見方が変われば、きっと世界は大きく変わる。

自分たちは、そう強く信じています。

しかし言うまでもなく、現在地上で起こっているあらゆる問題を、宇宙のみで解決できるわけではありません。

私自身は外科医として、今地上の医療現場で問題を抱えている方々に対しできる限りことを、自分の大切なミッションとして続けていきます。

プロジェクトのメンバーも、今起こっている目の前の課題に対して社会の様々な場所で力を尽くしながら、「惑星地球」としての未来を創っていく。

それが、我々宇宙医療プロジェクトのビジョンです。

宇宙での医療ヘルスケアにおけるイノベーションを目指して

「人の宇宙生活に必要な、あらゆるものを創る」というビジョンを掲げ、事業創出を目指して走り続けている我々ですが、現在の具体的な活動についてお話します。

自分たちの提供価値として、宇宙生活や医療ヘルスケア分野での新規事業を目指す企業の方へ、お持ちの技術やシーズを宇宙生活や医療ニーズにどう生かすか、という提案をしたいと考え分析を行っています。

さらに、それらを宇宙という特殊環境を目指してつくられたプロダクトは必ず地上での類似課題にも役立つと考えており、その展開方法も検討していく

そのために、日々情報収集と分析にあたっています。

またこれまでに、ISSでの宇宙飛行士健康管理、火星や月面で起こり得る医学・医療課題、また地上で宇宙に最も近いとされる極地での生活課題などについて、識者の方にアプローチしてヒアリングを重ねています

そこから見えてくる現状解決されていない課題、十分でない対応策などを抽出して、研究課題・ビジネスアイデアとして昇華させていくことを目指しています。

その結果、複数の企業の方に関心をお持ちいただき、ご相談を頂ける案件が少しずつ増えてきており、これからますます頑張っていかなければ!という状況です。

医療分野の知見をベースとしつつも、企業によって得意とする技術やシーズを生かして様々な課題に柔軟に対応することを目標に取り組んでいます。

これまでにも我々は、一般の方々に向けた最新の宇宙医学研究についての情報発信を広く行ってきました。

国内外で多くの重要な研究が進行しており、これから多くの人が宇宙へ行く時代にぜひそれらをわかりやすくお伝えしたい、という想いからでした。

現在はそれを一段階進め、それぞれの企業様でお持ちの技術やシーズに合わせた宇宙での医療ヘルスケア分野の課題設定、解決策の提案を目指した研究調査を行っています。

少しでも関心をお持ちの方、この分野で課題を抱えていらっしゃる企業の方は、ぜひともお気軽に相談ください。

現在我々は医療者のほか、エンジニア、デザイナー、経験豊かな事業コンサルタントなど多様なメンバーが力を合わせて事業化を目指して進んでいますが、さらに一緒にプロジェクトメンバーとして走ってくれる方を求めています。

イノベーション創出のためには、さまざまな立場の方の専門性が非常に大切になってきますので、宇宙に強い想いをもち、さらに「人」に関わるビジネスに関心のある方に、ぜひ力を貸して頂きたいと思います。

以上、現在のABLab宇宙医療プロジェクトについてお伝えしました。

他にないメンバーの多様性を誇るABLabの資源を最大に生かして、宇宙での医療ヘルスケア分野でこれからもイノベーション創出を目指していきます。

最後になりますが、このたびプロジェクトのホームページを作成することが決定し、近日公開に向けて準備を進めています。

我々の想いや提供価値を分かりやすくお伝えできればと考えており、ご期待ください!

投稿者プロフィール

後藤正幸
後藤正幸
「宇宙に、医療を」目標とする脳神経外科医。医療分野での宇宙ビジネス創出を目指して、日々活動中。最新の宇宙医学研究を、多くの人に分かりやすく伝える発信を行なっている。