THINK SPACE LIFEへの道のり ~Vol.4 フィニッシュ~
こんにちは、外科医の後藤です。
前回まで連載でお届けしたABLab宇宙医療プロジェクトのTHINK SPACE LIFEへの挑戦記ですが、今回はいよいよ最終回です。
アイデアを現実のものとするためのかすかな光が見え始め、ついに完成および投稿に至るまでのクライマックスストーリーを余すところなくお伝えします。
前回届いた茨城県宇宙プロジェクト推進室からのメールは、試作品開発や量産・販売について協業してくれる企業を探しているのなら、宇宙ビジネスを推進する県の立場から協力を頂けるとの内容でした。
製品アイデアの実現、開発リソース不足の問題に追いつめられていたメンバー全員に、大きな勇気を与えたのは言うまでもありません。
茨城県は、全国でも宇宙産業支援に力を入れている県で、自分も何度か県主催の宇宙ビジネス説明会に足を運んだことがありました。
当時はまさかこのような形でお世話になるとは思いもしませんでしたが、今となっては参加していてよかったと心から思っています。
県とのやりとりでは、正直に自分たちの限界とスタンスを伝えました。
僕たちには製造業のような開発リソースがなく、アイデアを自分たちの力だけで実現させることはかなわない。
しかし、宇宙に関わる多様な人材が集結するABLabというチームの強みを生かし、宇宙生活と地上両方の課題を解決する製品アイデアの企画から設計までを行うことができる。
そして、技術や設備を持ちながらもまだ宇宙産業へ参入していない企業に、アイデアを提供して新たな自社製品として開発頂くことで、微力ながら宇宙産業の活性化に貢献してきたいという思いです。
どのように受け止められたかはわかりませんが、茨城県の方々は僕らのようなとても小さなチームにも温かく、その後も頻繁にやりとりをさせてもらえるようになりました。
そして、〆切の10日前にしてもう一つの大きな課題が発生します。
この製品アイデアの「特許をまだとっていない」ということ。
今さらになってそのことに気が付き、ここからはほぼ連日徹夜に近い追い込みが始まりました。
特許申請をエンジニアのメンバーに依頼し、デザイナーは内部設計や製品紹介パネルの最終仕上げ、僕はエントリーシートにこの製品がどれほど宇宙と地上の課題を解決する可能性を秘めるものであるかを、多くの文献を当たって必死に書き連ねました。
事業コンサルタントのメンバーにアドバイスを求め、エントリーシートの文章についてもロジカルに分かりやすく、根拠と実現性を伝えるように書くよう指摘を受けて最後の最後まで修正作業を続けました。
ここでも、ABLabには困ったときに必ず助けてくれるメンバーたちが存在しました。
宇宙向けの製品開発や環境試験を行うのに、何に注意が必要でどのような条件を満たす必要があるのかを教えてくれた宇宙機器メーカー勤務の仲間。
詳細な設計については、超小型月面ローバーYAOKIを独自開発した技術をもつ、株式会社ダイモンのCEO中島氏のアドバイス。
アロマセラピストのメンバーには、閉鎖環境で自律神経に作用しリラックスや気持ちの切り替えにつながる香りを、ISSという対流がなく揮発物質が厳しく制限される特殊環境でどう使用するか。
そして、夢中になるあまり製品の量産・販売まですべて自力で突き進もうとしていた自分たちに、最も適したビジネスモデルは何なのかをアドバイスしてくれた、実力派マーケターの伊藤代表。
他にも、ここには書ききれないほどのABLabの多くの仲間に惜しみない支援を受けて、ついにすべてが完了しました。
それはまさに〆切当日、9月4日の午前5時。
特許申請ができたよ、と開発の中心メンバーであった仲間から連絡を受け、窓から朝日が差し込むのに気づいた光景は決して忘れないでしょう。
まさに、大人の学園祭?のような怒涛の2か月間でした。
完成した製品アイデアが、こちらです。
まだ試作に入る前の段階ではありますが、余すところなくすべてをお見せします。
国際宇宙ステーションでの閉鎖環境ストレスと、コロナ禍における人との対面が制限される地上社会の、両方に光をもたらすウェアラブルデバイス。
自分たちの知力と体力の限りを尽くした今回のTHINK SPACE LIFEへの挑戦でしたが、結果がどうなるかはまだわかりません。
この製品を宇宙へ、そして地上で使いたいと思ってくれる方たちに送り届けることができるのかどうかも…。
しかし、医療ヘルスケア分野での宇宙ビジネスを創出するという、プロジェクトスタートからの僕らの思いに何ら変わりはありません。
これから人が宇宙で暮らすため、そして同時に地上課題の解決につながるアイデアを生み出す存在になっていく、という強い思いをもって活動を続けています。
決して楽な旅路ではないことは承知のうえですが、一緒にこの船に乗ってくれる方をいつでもお待ちしていることをお伝えして、この連載を終わりたいと思います。
ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございました。
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