【カフェバー流れ星】ムーンラッシュ?!2025年月面開発の見どころは広報視点も面白い!寺薗淳也代表をインタビュー

 2023年8月23日に開催された宇宙ビジネスの交流イベント「Cafe & Bar 流れ星」は、合同会社ムーン・アンド・プラネッツ代表の寺薗淳也(てらぞのじゅんや)さんがゲストスピーカー。「2025年、月面開発の見どころ」をテーマにトークセッションを行いました。

 以前は月探査や衛星プロジェクトの立ち上げ、JAXAの広報としても活躍し、現在は自身の会社を通して、宇宙開発の広報・普及啓発活動に勤しむ寺薗さんにお話を伺いました!

ダイジェスト版ショート動画(約1分)

 まずはダイジェスト版のショート動画をご覧ください。

宇宙産業の広報スペシャリストから見た世界

 寺薗淳也と申します。薗の字が「菌(きん)」に似ていることから「てらきん」という愛称で呼ばれています。元々、地質学から宇宙の世界に入ってきて、月の表面の地質とか内部構造を研究していました。その途中から、今でいう日本の月探査計画「かぐや」や、大学院生時代からずっと関わってきた小惑星探査機の初代「はやぶさ」とか、そういったミッションの立ち上げ、広報をずっとやってきました。

 途中、JAXA広報部で宇宙開発の広報を経験したり、大学の教員となって月のデータシステムや探査での処理システムの研究をしたりしました。その後、自分の広報や普及活動の腕を活かそうと創業したのが、合同会社ムーン・アンド・プラネッツです。宇宙開発の普及啓発、広報を中心に活動しています。

【伊藤からの紹介】今日のセッションは寺薗さんの著書がきっかけです。2022年11月発売の「2025年、人類が再び月に降り立つ日」。アルテミス計画で2025年に再び人類を月に送り込むという挑戦が進んでおり、それについて解説された書籍です。月面開発だけではなく宇宙ビジネス全般いろいろな要素も含めて、歴史を紐解きながらすごく詳しく解説されているので、宇宙ビジネス初心者の方には絶対読んでもらいたい一冊です。

世界と日本。宇宙産業のいま。

 書籍の発売から少し時間が経っていますが、今でもアルテミス計画が世界の宇宙開発の柱になっています。それが宇宙業界を引っ張る形になっているわけです。アルテミス計画の2号機では、いよいよ人が月を周回します。人が月の周辺まで行くのは半世紀ぶり。計画が少し後ろ倒しになってはいますが、一度月まで行ってしまえば、その後は割と「くるくるっ」と順調に進んでいくのではないでしょうか。

 日本の月ビジネスの取り組みは特徴があります。例えばアルテミス計画のお膝元のアメリカと比べても、一般企業の月への関心が飛び抜けて高いと思います。全く関係なさそうな企業や業界の人たちでも、「自社も月で何かできるんじゃないか?」と検討していたりする。他の諸外国ではあまり考えられないですね。僕から見ても、日本は民間企業が宇宙に投資したり、取り組んでいるところが多いです。一時期、日本はベンチャーにとって不向きな国だという見方があったわけですが、少なくとも宇宙に関しては、この1年でガラッと変わった感じがします。

 いま注目している企業は、まずispaceさん。民間世界初の月面着陸という偉業を達成するために、諦めることなく、もう次の月着陸機の制作に取り掛かっているというのは、世界的に見てもかなり先端的な動きをしているように見えます。そして、月面探査車「YAOKI」を開発しているダイモンさん。超小型の月面探査車「YAOKI」は、「小型だからこそ可能性が広がる」という、開発者であり代表である中島さんの言葉がすごく心に残っています。そういう意味で、ある程度大きなものと、すごく小さなもの、両社が月のミッションを切り開いていく時代になっているのは、それだけでも感慨深いです。

 YAOKIは、これまでの宇宙開発からすると、桁違いに小規模で異例な挑戦と思う方もいらっしゃると思います。でも、小さいものを宇宙に持っていくのは、日本人の得意技ですね。日本人って、何でも小さくする国民性があるように思います。例えば箱庭とかもそうですね。アメリカや旧ソ連では、無人機でも2〜3メートル規模のものを作っていましたが、日本人にとっては小さいもののほうが心に響くのかもしれません。小さなものに想いを込める。YAOKIもはやぶさも、欧米の人たちからすると「あんな小さな探査機で何ができるんだ?」と思われるかもしれない。そんなはやぶさが世界初のサンプルリターンを成し遂げちゃったから、世界は仰天したわけです。最初は世界基準で見ても遥かに小さい探索だったので。ただ、そういった小さいものに、ぎゅっと詰め込む技が得意な国民性が、宇宙開発の中でうまくミックスされて、動き始めたのかなっていう期待感がありますね。

 超小型、あるいはリソースをなるべく少なくして月や宇宙に行くっていうことを狙うというのはありだと思いますし、逆にそういう小さな中に何を詰め込めるか?と必死になって考えることの可能性は、日本人にとって、楽しいチャレンジとして受け入れられるんじゃないかと思います。「YAOKI」は目の前で動くのも面白いですが、38万km離れたところで動いてくれたら胸アツですよね。月を見ながら「あそこで動いてんだからね」って言えるのはめちゃくちゃ楽しいですよね。

なぜいま、月なのか?

 2025年に向けて、その他の見どころとしては、JAXAが進めている「LUPEX(ルペックス)」。インドと日本の共同プロジェクトです。月面に降りるという意味でも非常に注目ですし、月の南極の氷探索に全振りしたミッションというのは、日本としても今までにはないミッションですね。インドはLUPEXで着陸機を提供し、日本はローバーを送り込みます。今週末、小型月着陸実証機「SLIM」を打ち上げの予定ですけれども、構想と検討は実はずっと以前からしていたのです。そのSLIMがようやくLUPEXに繋がり、さらなる大きな計画へと繋がっていく予定です。LUPEXは2024年度を目指す計画なので、そういう意味では、ここから先1〜2年の変化は大きいですね。

 なぜ皆が「月だ!月だ!」と騒いでるかというと、月に水がある可能性が高いと言われているからですね。しかしそれはあくまでも上空からの探査でわかったことでして、どれくらいの量があるか、どこに何トン、どのような形であるのかという具体的なことは、まだ全く分かっていないのです。NASAが開発している月面探査機「VIPER」が来年、月に行く予定になっていて、それは月面に下りて水を探すためだけに作った機器と言ってもいいぐらいのもの。これで大量の水が見つかってくれれば、皆がエキサイティングに月面に行って、月面基地の建設へと明確な目標設定ができる。水の量によって、その後の月面開発に対する勢いは全く変わってきます。しかし、仮に期待するほどの水が見つからなかったとしても、私たちの月に対する熱は、そう簡単には冷めないだろうと思います。

 直接探査によって水の存在が確実に分かるか、それによってもたらされた結果を今の月開発のコミュニティがどう受け入れていくか。超ポジティブに捉えれば「水じゃんじゃん取れるぜ」って分かったら、本当にいろんな企業がゴールドラッシュ的に参入してくると思います。

 水以外にも見どころはあります。例えば、月から火星を目指すとか、水以外にも月の資源を開発するとか、あるいはそもそも月自体を純粋なエンタテイメントの場として考えるとか。本当に月を何かに活かしたいっていう人たちは多分生き残っていけると思います。火星や他の惑星を目指す場合には、月をステーションとして経由していくことになります。だから月を開発するのは避けて通れない。月を試験場として使う、あるいは宇宙飛行士が低重力になれる場所として使うとか、いろいろ考えられるんですね。あれだけ広い地面があれば、逃げ場としても使えますから。

 いま宇宙ビジネスへの新規参入が増えていて、様々な企業が自社の強みを持って集まり、一緒にプロジェクトへ加わろう、みんなでやろうっていう雰囲気が強いですね。ただし、そこでは自社の強みを考える過程が重要だと思います。他社が「月の研究会に行ってるから、うちも参加するぞ」というのでは長続きしない。「うちは何ができるのか」「何が得意なのか」を、月というちょっと遠くて掴みどころの無い目標において、客観的に考える機会にもなるのかなと思います。

カフェバー流れ星とは

 カフェバー流れ星は、月に一度だけ開く、宇宙または宇宙ビジネスに関心を持つ人が集うカフェバー。と言っても実店舗があるわけではなく、イベントスペースを借りて一晩限りの交流の場を提供する交流イベントです。

宇宙ビジネスの実践コミュニティ「ABLab」が運営し、宇宙の仲間作りを支援しています。宇宙や宇宙ビジネスに関心のある方ならどなたでもご参加いただけます。ABLabのスタッフがホストとして、ゲストの皆様の新しい出会いや交流をお手伝いしています。これまでも様々なプロジェクトやコラボレーションのきっかけを促してきました。

8月23日開催のイベント概要

日時  :2023年8月23日(木) 19:00-22:00

場所  :New民家バー後楽園店
     ( https://www.instabase.jp/space/4748208721?catalog=true )

参加費 :初めて参加の方    2,000円
     2回目以降の参加の方 3,000円
     ※ABLab会員は月額会費に含まれるため無料

定員  :30名

対象者 :宇宙や宇宙ビジネスに関心のある方

サービス:飲み放題、お菓子おつまみ類

タイムテーブル:

19:00-20:00 オープン、フリータイム
20:00-20:30 自己紹介タイム (参加者の皆さん一人一人に自己紹介をしていただきます)
20:30-21:00 対談セッション
21:00-22:00 フリータイム
22:00-22:30 記念撮影、クロージング


対談ゲスト:

合同会社ムーン・アンド・プラネッツ
代表 寺園淳也さん

カフェバー流れ星への参加方法

 次回以降のカフェバー流れ星に参加したい方は、ABLabのPeatixをフォローしてください。イベント公開時に通知を受け取ることができます。

関連ページ

月探査情報ステーション
https://moonstation.jp/

投稿者プロフィール

九十九凛
九十九凛宣伝 / 企画
宣伝やブランディングといったコミュニケーションのマネージャー。
フリーランスでSNSディレクションや、広報に必要なデザイン制作と写真撮影をしている。Web3産業ではゲームクリエイターのコミュニティマネージャーとして従事。人やサービスの価値を説明するのが趣味。夢は日本や世界を旅して自然や文化の美しさを撮影しつつ、友だちを見つけに行くこと。