宇宙ビジネスコンテスト S-Booster 2018 最終選抜会まとめ
こんにちは、ABLabの棚田です!
2018年11月19日に行われたS-Booster 2018最終選抜会。
200を超えるエントリー数の中から選ばれたビジネスプラン部門8件、未来コンセプト部門4件、計12件がファイナリストとして最終選抜会に出場しました。
本記事では特にビジネスプラン8件について書いていきたいと思います。
本年度の優勝チームは一体どんなビジネス案なのでしょうか…?
ちなみに選抜会の様子は、youtubeでも見ることができます↓
目次
- S-Boosterとは
- ①ヒコーキをアンテナ化!海の上でも衛星データ受信サービス
- ②美肌衛星予報
- ③宇宙から見つけるポテンシャル名産地
- ④静止測位衛星による津波早期警戒サービス
- ⑤宇宙でのQOL向上のための、肌と微生物の共生
- ⑥旅客機のレーダー衛星化によるビッグデータ事業
- ⑦成層圏における微生物採取請負人
- ⑧ロケット海上打ち上げ(最優秀賞受賞)
- 結果発表
- まとめ
S-Boosterとは
S-Boosterとは、JAXAと内閣府が中心となって進める、宇宙を利用した新たなビジネスアイデアコンテストです。
ベンチャー企業のみならず、学生や個人、異業者からアイデアを幅広く募集し、メンターによるブラッシュアップを通じて、投資家等からの資金調達の実現に向けて、事業化に向けた支援を行っています。
昨年度大会では、航空会社職員の松本紋子(まつもと あやこ)さんが優勝し、賞金300万円を手にしました。2回目の開催となる今年はなんと優勝賞金1000万円となっており、まさに国を挙げて宇宙産業を支援する体制となっています。
また実行委員会は政府系だけでなく、民間企業も多く名前を連ねており、日本における宇宙ビジネスに対する関心の高さが伺えます。
「S-Booster2018」実行委員会
内閣府宇宙開発戦略推進事務局
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
ANA ホールディングス株式会社
株式会社大林組
スカパーJSAT 株式会社
日本航空株式会社
株式会社ポーラ・オルビスホールディングス
株式会社ローソン
①ヒコーキをアンテナ化!海の上でも衛星データ受信サービス
チーム名:AO-Links 代表者:津上 哲也
◇課題
地球観測衛星の数は、今後122機(2018年)から850機(2025年)まで増加すると考えられています。
しかし現状、撮像したデータ全てを地上にダウンリンクできている訳ではありません。
◇要因
- 地上局のアンテナが北極圏に集中しているため、通信時間が地球1周で10分未満
- 少ないアンテナを世界中の事業者が用いるため混雑で使えない時がある
◇解決策
What?
ヒコーキをアンテナ化する!
既存のアンテナは陸上、つまり地球の30%しかカバーできていませんでしたが、飛行機にアンテナを設置することで、海上、すなわち残りの70%もカバーすることができます。
通信頻度・通信時間を向上させ、衛星データを余すことなく地球上に届けることができるという構想です。
実際顧客ユーザーに提供するために必要なデータ以外の観測データは、使われずに上書きして捨てられていましたが、この捨てられているデータを旅客航空機で回収することで、データバックアップ&利活用のサービスを構築することが可能となるそうです。
How?
事業の流れとしては、衛星が撮像したデータをいつでもどこでも任意のアンテナを備えた飛行機にダウンリンクし、飛行機がデータを地上に持って帰り、事業者へ渡すという工程になっています。個人的には飛行機が物理的にデータを持ち帰らなければいけないため即時性を失っている点が気になりました。
実行計画としては2021年までにサービス開始を想定していました。
衛星1機あたりの通信費は、0.2億円〜5億円 / 年といわれていますが、AOLINKSでは今後増える衛星を含め850機と契約し約280億円 / 年の売り上げを見込みたいとのことです。
②美肌衛星予報
チーム名:YOT (by POLA) 代表者:大久保 禎
◇課題
美肌の敵は太陽光線。写真はとあるタクシードライバーの方ですが、窓際で太陽光を浴びている側の肌がダメージを受けていることがわかります。
◇要因
- 紫外線だけでなく、近赤外線が実は肌の奥までダメージを与えている
- しかし近赤外線を可視化する手段が身近に現在ない
◇解決策
What?
地球観測衛星によって近赤外線強度マップを作成する!
衛星を用いることで地上の近赤外線強度を測定することが可能です。
さらに衛星で取得した近赤外線量のマクロデータに加え、ウェアラブル端末で個人の行動軌跡で積算されたミクロな近赤外線量を測定します。マクロデータとミクロデータを比較することで個人の特徴を解析します。
そして個人のミクロなデータとPOLA社の持つ肌や生活習慣に関する1750万件のビッグデータを合わせることで、一人一人に合った肌コンサルを行っていくというものです。
How?
顧客としては個人と法人両者を想定しています。
個人では衛星データという客観データとウェアラブル端末で得たデータを組み合わせることでその人にあった肌老化を防ぐアドバイスを行います。
法人相手にはそれらの肌ビッグデータを販売することで、例えばアパレル店なら個人に合った商品を提供しやすくなるといった具合です。
宇宙技術を美容・健康へ積極的に投資する顧客に繋げ、街と組み、社会全体の発展に貢献するという構想でした。
③宇宙から見つけるポテンシャル名産地
チーム名:天地人 代表者:繁田 亮
◇課題
マンゴーやキウイなど元は外国産のフルーツを国産化することで、地方の特産品として高価格で取引することができています。
しかし安定した供給、量産化はできていません。
◇要因
- 国内に適した栽培地が見つからない
◇解決策
What?
衛星データを用いて作物ごとの適切な栽培地を見つける!
流れとしては、衛星(天)で撮像したデータを解析し土地を選定(地)、さらに農業に関する専門知識による栽培サポート(人)を行う一貫サービスとなっています。
例えばゼスプリを育てるに当たって最適な条件というものが上図のように既にわかっているので、衛星画像にその条件フィルターをかけることで、最適な土地を効率的に見つけ出すことが可能です。
How?
農業参入に興味を持っている企業に向けて、土地選定から栽培指導まで含んだ総合ソリューションを提供していくことで横展開を狙うそうです。その際既に物流網を自社で持っている企業が好ましいとのことですが、地方の個人農家の方も十分に使えるような気もします。
このとき、土地選定コンサルティング事業はサービス利用料という形で、栽培サポートの際に用いるベビーリーフ栽培では顧客の売り上げからの配分という形でそれぞれ収益を得ていきます。
④静止測位衛星による津波早期警戒サービス
チーム名/代表者:長尾 年恭
◇課題
南海トラフ地震や東日本大震災など、被害者の多くは津波によるものです。
しかし津波の到来を予期できない、もしくはその規模を見誤ってしまうことが多々あります。
◇要因
- 津波予測のための初期条件(海面の盛り上がり)を観測する方法がなかった
◇解決策
What?
津波電離圏ホールという測位衛星みちびきを用いた新しい技術で、正確な津波予測を行う!
津波電離圏ホールとは、海上の津波の動きに合わせて、高度300km付近の電離圏に歪み(ホール)ができる現象のことで、東日本大震災のときに初めて発見された新しい現象です。その電離圏の歪みによって測位衛星の電波も乱れるので、間接的に津波の規模を予測できるという訳です。
この際重要なのは、日本の真上に静止している測位衛星でなければならないという点です。なので日本の南西上空で常に静止しているみちびき3号が本ビジネスでは必須となっています。
How?
地震大国、津波大国かつ経済大国である日本が取り組む国際的意義は大きいのは事実ですが、やはり収益化が難しそうですね。国の所有するみちびきを必要としているのも含めB2Gの事業になりそうです。
⑤宇宙でのQOL向上のための、肌と微生物の共生
チーム名:Fun-G 代表者:佐々 祥子
◇課題
今後確実に宇宙旅行客数は増加していきます。
2019年度以降の数分間の弾道宇宙旅行は全世界で既に700名を超える方が予約を済ませています。それ以外にも宇宙ホテル構想や、2023年に予定されるSpace Xの月旅行は話題にもなりました。
しかし宇宙空間は地球上と異なり、生活環境がガラリと変わります。
- 無重力
- お風呂に入れない
- 肌の環境変化
などの影響でNASAの調査によると、
- ニキビ
- 肌の乾燥
- かゆみ
が地上の25倍になってしまうという報告もあります。
◇要因
- 宇宙という環境自体が肌の悪玉菌を増やしてしまう
◇解決策
What?
宇宙にいく前に、肌に必要な19種類の善玉菌を補い、かつ宇宙滞在中は悪玉菌のみ除菌する!
How?
宇宙だけでなく、地上の入院患者さんや、アウトドア愛好家に対してマネタイズを図っていくそうです。
肌環境の変化という複雑な現象を対象にしているので模擬環境ではなく、現場(宇宙)での実証が必要にはなるとのこと。
このように地球上とは異なる宇宙特有の肌環境に着目し、微生物との共生を軸に宇宙で過ごす人類のQOLを向上させる事業となっています。微生物を操る技術に着目し、一般人が宇宙で快適に過ごすために最適な肌環境へ導くことで、民間での運用が急速に進む宇宙旅行・滞在の大衆化に貢献していきます。
どうしても宇宙開発と聞くとロケットとか衛星とか派手な技術の部分に目がいきがちですが、宇宙旅行が実現したとき一番困るのってこういった身近な問題ですよね。どれだけ未来を自分視点の肌感で感じることができるかがビジネスの鍵となるのかもしれません。
⑥旅客機のレーダー衛星化によるビッグデータ事業
チーム名:AO-Links 代表者:宮下 陽輔
◇課題
衛星データは地上の環境に影響を受けないため災害時の状況確認に威力を発揮します。しかし現状、コンステレーション衛星のように数を増やさない限り、災害時に迅速な対応ができない、リアルタイムに変化する地上の動きを追えない、といった問題があります。
◇要因
- 地球観測衛星は軌道を徐々に変えながら地球を周回しているため、同じ場所に戻って来るまでに時間がかかる(回帰日数:3日〜)
- 災害時に空撮する撮像専用飛行機はあるが、その都度燃料費、運用費がかかるので日常的に多用できない
◇解決策
What?
既存の複数の旅客機にレーダー&カメラを取り付け、航路上の画像をビッグデータとして集積する!
通常の可視光カメラと異なり電波を用いるレーダーは雲等をすり抜けるので天候の悪い時でも地上を撮像することができます。
衛星よりも高度が低いのでその分地上分解能の良い画像が取得できます。
How?
災害利用と産業利用の大きく2つを想定しており、災害では迅速性、産業ではリアルタイム変化を売りに顧客を獲得していきます。
災害救助:
既存サービスでは災害発生から撮影まで3日程度かかっていましたが、AOLINKSの新サービスがあれば24時間以内の撮影が可能となります。また国内における年間売り上げは5年後に2億円超(100枚×270万円)を想定しています。
産業分野(市場予測、エネルギー、不動産、金融etc):
既存サービスでは同一地点の撮影枚数は3日で1枚でしたが、AOLINKSの新サービスがあれば1日で10枚撮像することが可能です。さらに国内における年間売り上げは5年後に30億円超(60箇所×顧客単価5200万円)を想定しています。
ただ、撮像専用の飛行機と異なり、狙った場所狙った時間に飛ばすことはできないため、レーダー搭載飛行機の母数がある程度多くなるまではサービスとして成り立たないのが難しいところですね。使えるサービスになるまでに相当時間とコストがかかりそうです。
⑦成層圏における微生物採取請負人
チーム名:チーム スペースドリフター 代表者:近藤 憲
◇課題
2013年、成層圏の中で微生物が発見されました。特殊環境で生きる微生物の仕組みを解明すれば、コスメ、新素材、バイオ関連、DNA修復、ガンや遺伝子病の治療法開発に繋がると考えられています。
しかし現状、これらの微生物を採取することは非常に困難であり、研究がほとんど進んでいません。
◇要因
- 大型バルーンではコストが高い
- 一度に採取できる微生物の数が少ない
◇解決策
What?
小型バルーンを用いて新しい技術で採取・解析する!
- 超微量ゲノム解析
少ないサンプルを増幅させる
- 吸入式採取装置
軽量で高性能
これらの技術に加え、小型バルーンの強み(大型バルーンの1/100のコスト、法規制のわかりやすさetc)を活かし、拡大していくそうです。
How?
微生物を採取し、ライブラリ化することで顧客にライセンスを供与する仕組みです。
ただ、産業化の出口があまり見えていない現状で、どれだけ需要があるかはパッとみてよくわかりませんでした。でも未知の生物ってそれだけでわくわくしますよね!
⑧ロケット海上打ち上げ(最優秀賞受賞)
チーム名:森琢磨・山田龍太朗 代表者:森 琢磨
◇課題
近年急激に増加する小型衛星の需要ですが、今後2030年までに17,645機が新たに打ち上げられるそうです。しかし世界の宇宙ベンチャー企業は口を揃えて打ち上げ場が足りないと言っているそうです。
このままの打ち上げ施設の成長率では、17,645機の小型衛星を打ち上げるための費用13兆円に対して、打ち上げ場の不足によって6.5兆円分の機会損失が出てしまうのです。
◇要因
- 場所がない
- 建設にお金がかかる
◇解決策
What?
世界中に存在する稼働していない海洋掘削リグを安値で買い、海上打ち上げ施設に改造する!
今後増えるであろう小型ロケット程度のサイズであれば、海洋掘削リグ上で組み立て作業から打ち上げまで余裕で行うことができるとのこと。
さらに世界には現在未稼働の掘削リグが全体(およそ1000個)の40%も存在しており、今すぐ購入できるもので2億円程度で購入可能となっています。
余っていてどうしようもない海洋掘削リグの不と、打ち上げ施設が足りないという不を結びつけた奇抜な案ですね。
How?
2億円でリグを購入
2億円で中東から日本まで移動
1億円で海底調査
1億円でリグ自体の検査
3千万で母船との通信用工事
以上、計6.3億円でリグを打ち上げ施設化できるとのこと。
打ち上げ場としての役割だけでなく、観光、広告と事業を横展開していくようです。
2019年には実証試験を行い、2024年には初期投資を回収できる算段となっていました。1機打ち上げあたりの価格設定も気になりますね。
この案、個人的にもとても面白いと思っていたのですが、日本という海に恵まれた立地や打ち上げの安全面で陸よりも海が望まれるという点においても、今すぐ日本が取り組むべきビジネスに感じました。また、リグは移動も可能なので、出張打ち上げサービスとかもできそうですよね。
世界中のリグを買って日本を宇宙へのハブにしたい、という森さんの思い、是非実現させてほしいです。
結果発表
審査員による結果は以下のようになっていました!赤文字はビジネスプラン部門、青文字は未来コンセプト部門の受賞を表しています。
スポンサー賞
賞金50万円 + 双方の合意の下、スポンサー企業による事業化支援
ANAホールディングス賞:
宇宙から見つけるポテンシャル名産地(天地人)
大林組賞:
ロケット海上打ち上げ(森琢磨・山田龍太朗)
スカパーJSAT賞:
地球上から月面基地開発可能なテレプレゼンスロボットの実現(GITAI)
JAL賞:
宇宙から見つけるポテンシャル名産地(天地人)
ポーラ・オルビスホールディング賞:
成層圏における微生物採取請負人(スペースドリフター)
未来コンセプト賞
賞金100万円
地球内部のCTスキャン(大出 大輔)
審査員特別賞
賞金200万円
宇宙から見つけるポテンシャル名産地(天地人)
最優秀賞
賞金1,000万円
ロケット海上打ち上げ(森琢磨・山田龍太朗)
まとめ
ということで本記事では、S-Booster 2018からビジネスプラン8件についてまとめてみました!去年より全体的にレベルアップして、より実現性の高いプランが多かったように思います。
特に、最優秀賞の「海上打ち上げ」というアイデア自体はこれまでも多くの方が考えていたと思いますが、「海上掘削リグ」という今すぐ実現可能なものと結びつけることで、実現性が一気に高まりました。このアイデアって「掘削リグ」に関わっている方でないと絶対出てこないですよね。宇宙開発において、他分野の方を巻き込むことがいかに重要かを実感しました。
ということで、様々な専門分野の方が集まっているABLabにも大きなチャンスがありますね。来年はABLabも参戦すべく、準備を整えていきます。共に手を組んで宇宙産業に挑戦してくれる仲間を、いつでも歓迎します!
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投稿者プロフィール
- ABLab創設者の一人。大学院時代は大質量ブラックホールについて研究。 現在はリモートセンシングに関する仕事に従事。日本の民間宇宙産業発展に貢献したいと思い、ABLabに。S-Booster 2019にてJAXA賞を受賞し、小型衛星試験場のシェアリングサービス「SEESE」の事業化に向けて鋭意活動中!