宇宙天気予報士の育成に向けて

宇宙天気タイトル

最近,「宇宙天気」というワードをメディアで聞くことが増えてきたと思いませんか?そのきっかけとなったのが,2022年6月に総務省からリリースされた「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会報告書」です.国の報告書として,初めて「宇宙天気予報士制度」の実現が盛り込まれました.これを受けて,ABLab宇宙天気プロジェクトでは「宇宙天気予報士」が活躍する未来を想定して,議論を重ねています.今回はその成果として,2022年11月に熊本市で開催された第66回宇宙科学技術連合講演会での発表を紹介します.

「宇宙天気災害に対応する人材を増やすには何が必要なのか?」

「宇宙天気災害に対応する人材を増やすには何が必要なのか?」というのがABLab宇宙天気プロジェクトの重要なテーマとなっています.宇宙天気というのは社会インフラに影響を与える宇宙環境の変化をいいます.宇宙天気による災害は,宇宙天気現象による社会インフラへの影響,例えば,宇宙インフラですと,人工衛星,通信インフラだと電話やインターネット,電力インフラだと電気を使うすべてのものが関わります.そして最終的には,生活への影響します.ABLab宇宙天気プロジェクトは,宇宙天気現象やその影響について,わかりやすく解釈し,伝える役割が必要だと考えています.そこで,私達は新しい職域を考えています.

宇宙天気キャスタと宇宙天気インタプリタ

従来,宇宙天気情報は現象を示す物理量で表現されてきました.研究機関から得られる宇宙天気情報には,太陽フレア,プロトンイベント,地磁気擾乱,放射線帯電子,電離圏嵐,デリンジャー現象,スポラディックE層等がありますが,これらのワードは社会インフラの現場やお茶の間では馴染みがありません.宇宙天気現象の私達への影響を述べることができれば,研究者と社会インフラの人々とお茶の間で議論できると思います.私達は新しい職域として,宇宙天気現象を社会インフラの現場で解釈できる人材を「宇宙天気インタプリタ」,又,お茶の間にわかりやすく伝える人材を「宇宙天気キャスタ」と呼んでいます.これは昨今,話題の宇宙天気予報士のキャリアに含まれると考えています.宇宙天気キャスタや宇宙天気インタプリタというのは全く新しい職域であるため,その育成プログラムというのは,これから検討していかないといけないものです.そこで,この発表では,どんな課題があるかを洗い出していきたいと思います.

気象予報士から宇宙天気予報士を目指す(気象予報士 斉田季実治プロマネ登場)

第66回宇宙科学技術連合講演会で講演する
斉田季実治さん(気象予報士,
ABLab宇宙天気プロジェクトマネージャ)
(熊本城ホール,2022年11月3日)

これまで宇宙天気の予報は、太陽フレアや高エネルギー粒子の量など,【宇宙天気の物理現象の規模】が予想されてきましたが,「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」の報告書において,今後は【宇宙天気現象がもたらす社会現象の大きさ】を基準とした新たな予報や警報が導入されることが示されました.GPS精度や電力網など,社会インフラへの影響をレベル化した情報が発表されるようになるわけです.宇宙進出が今よりさらに進み,宇宙天気の範囲や利用が増えれば,メディアにおいて宇宙天気情報の単独の情報発信が始まる可能性はありますが,まずは現在の気象情報の中で,紫外線情報や熱中症情報と同様の形でスタートするのが,普及の近道だと考えています.現在の宇宙天気の情報は,一般の人が知るまでに時間がかかっているのが現状です.「減災対応をするリードタイム」を確保するためには,情報伝達を迅速化する体制が必要であり,この面においても定期的に放送されている気象情報の中で,宇宙天気情報が伝えられるようになることが望ましいといえます.

宇宙天気キャスタの育成カリキュラム

「宇宙天気キャスタ」の育成カリキュラムは,気象予報士試験を参考にして検討を始めています.地上の天気で扱うのは,主に地上から50 kmまでの対流圏,及び成層圏の大気構造や集中豪雨、台風等の気象現象ですが,宇宙天気は高度60kmから高度1億5千万kmの電離圏,磁気圏,惑星間空間などの太陽地球系物理と太陽フレア,磁気嵐といった宇宙天気現象を扱うことになります.スケールと物理現象は異なりますが,地上の天気と宇宙天気で扱う領域は連続していて,シームレスな天気予報の実現が最も望ましい形だと考えています.その一方で,宇宙天気の法律はまだ未整備であり,予報や予報精度評価は研究段階な面も多く,最新の研究動向を確認しながら体系化していく必要があります.

近い将来,宇宙天気は必ず必要になる

近い将来、車の自動運転やドローンの配送などで,GPSの利用は拡大されることは間違いないでしょうし,民間の有人宇宙船の打ち上げが始まっていて,宇宙旅行が本格化すれば,被ばくの問題も大きくなることが懸念されています。太陽活動の11年サイクルのピークは2025年なので,その前に宇宙天気キャスターをスタートさせる必要があると考えています.これまでの気象災害は,災害が起きてから新しい情報を作ることで対応してきましたが,宇宙天気は,大災害が起きる前に先手を打って進めた情報にできれば,この国の防災に対する転換点にもなりうると考えています.そのためにも、先に発展してきた気象分野を参考にし,一般の人にわかりやすい情報が発信できるよう,研究や体制づくりが進むことを期待しています.以上,斉田プロマネの講演でした.

お話「宇宙天気とドローンを使ったフードデリバリ会社の社長」

斉田さんの様な気象予報士が宇宙天気のフィールドを扱い,宇宙天気キャスタとなる日も間近だと思います.もう一つ,宇宙天気に関わる人材として宇宙天気インタプリタを提唱していますが,これに関して,「宇宙天気とドローンを使ったフードデリバリ会社の社長」というお話を作りましたのでご覧ください.

(c)ABLab宇宙天気プロジェクト,キャラクタデザイン:R.Hoshiさん.

新しい職域の為の教育プログラムが必要

宇宙天気災害に対応する人材を増やすには何が必要なのか?という問いに対して.私達は,新しい職域として宇宙天気キャスタ,宇宙天気インタプリタを考えています.これらの職域を誕生させる為に必要な課題として教育プログラムが必要だと認識しました.課題として,以下が挙げられます.

①事業者や一般の方が知りたいのは宇宙天気の「現象」ではなく「影響」です.

②宇宙天気インタプリタは事業者特有の『知見』を持つ必要があります.今回のケースだと,ドローン運用に精通した人材が サブスキルとして 宇宙天気に関する知見を得て,宇宙天気インタプリタとして 彩貴社長に アドバイス するのが近道です. 宇宙天気の影響分野は様々であり,それぞれの分野に特化した教育プログラムが必要になるでしょう.宇宙天気の影響を受ける分野毎の専門家を対象とする宇宙天気インタプリタの教育プログラムを検討する必要があります.

③宇宙天気の影響が社会問題化すると,メディア等で宇宙天気を報道する機会が増えてきます.そういった時に,宇宙天気情報を一般の方に正確にわかりやすく伝える役割が必要になります.それが宇宙天気キャスタです.宇宙天気キャスタの基本となるスキルセットを既に保有しているのが 気象予報士の気象キャスタです.気象キャスタが対象を宇宙天気に拡張するのが実現の近道だと考えています.よって気象予報士の天気キャスタを対象とする宇宙天気キャスタの教育プログラムを検討するのが課題だと考えています.

第66回宇宙科学技術連合講演会 宇宙教育セッション
「3C02 宇宙天気キャスタと宇宙天気インタプリタの宇宙天気教育プログラム」より抜粋.

投稿者プロフィール

玉置晋
玉置晋
宇宙天気プロジェクトリーダー。
衛星運用現場の宇宙天気インタプリタ・軌道上技術評価エンジニア。茨城大学で社会人大学院生(宇宙天気防災)。宇宙天気災害から世界を守る仲間を募集中。