太陽フレアの情報はいかに拡散されたか?

日本時間の2021年10月29日0時半に地球からみて太陽の正面で大規模太陽フレアが発生しました.太陽フレアの規模は人工衛星で計測しているX線の強度で小規模なものからAクラス,Bクラス,Cクラス,Mクラス,Xクラスと分類されるのですが,今回は最大規模のXクラスでした.最大規模とはいえ,Xクラスで最も低いレベルのX1クラス太陽フレアでした.この件は,日本の宇宙天気の拠点研究機関である情報通信研究機構さん(以下,NICTさん)から,プレスリリースが出ました.テレビのニュースでも報道されましたので「太陽フレア」というワードを聞いた方も多かったのではないでしょうか?太陽活動は約11年周期のサイクルがあり,2021年現在は,極小期から極大期に移行するタイミングです.次の極大期のピークは2025年頃といわれていますので,これから,今回の様な大規模太陽フレアが発生することが増えてきます.

ABLab宇宙天気プロジェクトでは「宇宙天気キャスタの実現」や「宇宙天気インタプリタの普及」をミッションの柱としています(詳細はこちら).その為,今回の様な大規模太陽フレアが発生した際には,宇宙天気情報がどの様に拡散されていくのかをウォッチして,今後の活動の参考にしたいと思います.

「大規模太陽フレアが発生したそうだよ!」と人々が知るまでの経過

今回,太陽フレアが発生してから,日本の人々にどの様に情報が伝わっていったかを振り返ってみましょう.

宇宙天気のヘビーユーザが知る(発生~6時間後)

今回の太陽フレアがはじまったのは2021年10月29日0時半(以下,日本時間)頃です.そして,X線強度がある閾値を超えた場合に太陽フレアに関する臨時情報がNICTさんから配信されます(詳細はこちら).今回は1時40分に配信されました.普段から宇宙天気情報を気にしており,NICTさんの情報配信サービスに登録されている方は,この時点で大きな太陽フレアが発生したことを認識しました.同様に4時には静止軌道上の放射線量がある閾値を超える「プロトン現象」が発生したという情報配信がありました.この時点では,実際に太陽研究者がフレアの観測を逃したことを悔しがったり,宇宙天気のヘビーユーザがSNSで呟いたりという段階でした.

2021/10/29 0時半 大規模太陽フレア発生
2021/10/29 1:40 太陽フレアに関する臨時情報
2021/10/29 4:00 プロトン現象に関する臨時情報

私達が検討している「宇宙天気インタプリタ」や「宇宙天気キャスタ」はこの時点で初動を開始することになります(そうじゃないとイザという対応が間に合わなくなっちゃいます).

宇宙天気に関心がある方が知る,鹿児島高専「宇宙天気ニュース」の情報更新(11時間後)

日本で宇宙天気の情報を最も分かりやすく発信しているのが,鹿児島高等専門学校の篠原学先生が2003年から毎日欠かさず配信している「宇宙天気ニュース」です.宇宙天気ニュースで今回の太陽フレアに関する記事が出たのが11時23分でした.この時点で宇宙天気に関心のある方が大規模太陽フレアの発生を知る事になったでしょう.

2021/10/29 11:23 宇宙天気ニュース(鹿児島高専)の更新

最初の報道は朝日新聞さん,ここからSNSで拡散(12時間後)

今回の太陽フレアを最初に報道したのは朝日新聞さんでした.「電波障害に注意を、大規模な太陽フレア 30日に影響出る恐れ(朝日新聞デジタル,2021年10月29日 12時42分配信)」.会社や学校ではお昼休みの時間帯で,この頃からSNSに情報が拡散されていきました.

2021/10/29 12:42 最初の報道(朝日新聞さん)

報道関係者が知る.NICTさんのプレスリリース(14時間後)

SNSの情報が先行する中で14時15分に最初に紹介したNICTさんのプレスリリース「太陽面で大型のXクラスフレアを観測~太陽X線強度は発生前の100倍以上、地球への影響は日本時間30日午後から31日~」が出ました.

2021/10/29 14:15 NICTさんプレスリリース

一般の方が知る.夕方のニュース番組で報道される(18時間後)

夕方の各局のニュース番組で,今回の太陽フレアに関する報道がありました.NICTさんのプレスリリースに準じた内容でした.この頃には,SNS等で検索ランキングやコメントランキングで「太陽フレア」が上位に食い込んでいましたが,SNSの様々なコメントをみると,正確でない情報も多いと感じました.また,この時点で太陽フレアの発生から18時間が経過しており,太陽フレアに伴い発生したコロナ質量放出(CME:Coronal Mass Ejection)の地球周辺への到達まで数時間~3日というリードタイムしかないことになります.リードタイムが減るほど,減災対応は不利になります.ABLab宇宙天気プロジェクトは,この弱点をどうにかしたい,という思いで活動しています.

2021/10/29 18時 ニュース番組で報道

2021/10/31 19:15頃 CMEが地球周辺に到達した(2日+19時間後)

幸い,今回のイベントでCMEは地球に直撃しなかった為に,極端に激しい磁気嵐の発生はありませんでした.そして私達の社会に大きなダメージを与えることはありませんでした.

【斉田プロマネに聞く!】災害情報の報道と防災について

宇宙天気を災害ととらえた場合,宇宙天気情報は防災情報と同様な扱いになるかと思います.ABLab宇宙天気プロジェクトマネージャの斉田季実治さん(写真)はプロの気象キャスタで,元報道記者でもあります.どの様に防災情報を伝えているのでしょうか?

斉田季実治

防災情報の伝え方

防災気象情報は,今やテレビやラジオだけでなく、ネットニュースやSNSなど速報性が高いメディアの情報発信が急増し,利用者も増えています.その一方で,どれだけ早い段階で災害の危険性を知らせて,リードタイムを稼ぐかについては,予報精度を十分に理解して伝える必要があります.

未来の予想になればなるほど,時間的にも空間的にも精度は低くなるのが通常であり,どのタイミングで何を伝えるべきかを精査することが重要です.いたずらに不安を煽るのではなく,行動に繋がる情報発信が求められます.

台風や梅雨前線による災害の危険性は、数日前からある程度はわかるようになったため,「いつ」「誰が」「何をするのか」をあらかじめ決めておく「タイムライン(防災行動計画)」が普及してきました.交通機関が事前に予告して運行を中止する「計画運休」もその一つですが,社会に受け入れられた背景には予報精度の向上があると思います.

宇宙進出が急速に進む今,宇宙天気情報のニーズが高まっていますが,現在の宇宙天気の予報精度では発表できることに限りがあります.信頼性の低い予報が世の中に出ることで社会が混乱することがないよう関係機関と慎重に協議する必要がありますが,これと同時に、宇宙天気のことを広く知ってもらうアウトリーチ活動の重要性を改めて感じています。

投稿者プロフィール

玉置晋
玉置晋
宇宙天気プロジェクトリーダー。
衛星運用現場の宇宙天気インタプリタ・軌道上技術評価エンジニア。茨城大学で社会人大学院生(宇宙天気防災)。宇宙天気災害から世界を守る仲間を募集中。