S-Booster 2019でSEESEがJAXA賞を受賞するまでの物語
内閣府主催の宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster 2019」の最終選抜会が2019年11月25日に開催されました。そして、ABLabから出場したチーム「SEESE」がJAXA賞を受賞しました。如何にしてABLabからSEESEが誕生し、ここまで至ったのか、その裏側のストーリーをお届けします。
S-Booster 2019とは
S-Booster 2019とは内閣府が主催する宇宙ビジネスコンテストです。2017年から毎年行われており、今年で3回目となります。
今回、S-Booster 2019では、宇宙アセットを活用した新たなビジネスアイデアを募集し、国内から約200、アジア地域から約100の応募があったそうです。そして、1次審査、2次審査を経て、12組のチームがファイナリストとして選ばれ、専門家によるメンタリングを受けながら事業プランを磨き上げて最終選抜会を迎えたのです。
最優秀賞には賞金1,000万円が贈られ、事業化を目指した支援が受けられます。その他にも、審査員特別賞、スポンサー賞、JAXA賞などがあります。
S-Boosterをきっかけとして、宇宙分野における新規事業立ち上げを加速することができるのです。
SEESEとは
SEESEは、環境試験設備のマッチングサービスです。
宇宙ビジネスのオンラインサロン「ABLab」から生まれたビジネスアイデアで、メンバーは棚田和玖と永井涼太の2名です。この2人のチームをABLabの仲間たちが後方支援しています。
人工衛星などの宇宙機器を打ち上げるためには、事前に様々な環境試験をクリアする必要があります。しかし、これらの環境試験を一つの事業者で完結することは難しく、様々な試験設備事業者と調整する必要があります。そこには煩雑な事務処理など、多くの課題があります。一方、試験設備事業者側にも、設備の稼働率や日程調整、人材不足などの課題があります。
これらの課題をシェアリングエコノミーによって解決しようというのがSEESEの事業プランです。SEESEをわかりやすくマンガで解説する記事もありますので、ぜひご覧ください。
https://ablab.space/comic/004-seese/
ABLabからSEESEが生まれるまで
ABLabでは、S-Bootser 2019に向けて、ビジネスアイデアのブレーンストーミングを行ないました。2019年3月のことです。Zoomというオンライン会議のツールを利用して、夜な夜なメンバー同士でアイデアを出し合ったのです。
アイデア出しは数日に渡って複数回行い、30以上のアイデアが生まれました。その中に後のSEESEとなるアイデアもありました。発案はSEESEのリーダーである棚田和玖です。
ABLabメンバーとの会話の中で環境試験にかかる時間や手間が話題となり、そこからSEESEのアイデアが生まれたそうです。
ABLab内でのブラッシュアップ
ブレーンストーミングによって生まれたアイデアから、これはというものを厳選し、ブラッシュアップしていきました。そして3つの事業アイデアに絞り込み、S-Booster 2019へ応募したのです。
選考を通過したのはSEESEのみでした。1次選考、そして2次選考のプレゼンテーションをも通過し、SEESEはファイナリストへと選ばれました。
その過程では、事業プランのレビュー会議を行ったり、10社以上の事業者へヒアリングを行ったり、ABLabメンバーの応援も受けながら、2人は本当に頑張っていました。時には夜通し打ち合わせをすることもあったほどです。
S-Boosterによるメンタリング
ファイナリスト進出後は、S-Boosterより専門家のメンタリングを受けることができます。SEESEでは、メンターとしてA.T.カーニーの石田真康氏、丸紅の黒川宏己氏、森・濱田松本法律事務所の大段徹次氏からアドバイスをいただきつつ、事業プランのブラッシュアップを続けました。
月に2回のペースで行われたメンタリングでは、いかに収益性を上げるか、いかにして市場を広げるか、どうすればマッチングだけに留まらない価値を作ることができるか、など様々な視点から議論をしていきました。
SEESEリーダーの棚田は、メンタリングをこう振り返ります。「石田氏の瞬間的な課題解決力、黒川氏の鋭い洞察力は本当に素晴らしく、大きな気づきへと繋がった。そして大段氏の宇宙に留まらない発想力は常に刺激的だった。こうした専門家のメンタリングによって発散と収束を何度も繰り返し、今のSEESEがある」。
S-Boosterは本当に素晴らしい場を提供してくれました。
最終選抜会
2019年11月25日、日本橋三井ホールにて最終選抜会が開催されました。夏野剛氏、山崎直子氏をはじめそうそうたる審査員を前に、ファイナリスト12組のプレゼンテーションが行われました。
その模様はYouTubeで閲覧することができます。
SEESEは10番目の発表。応援に駆けつけたABLabメンバーも見守る中、本当に素晴らしいプレゼンテーションでした。しかしながら他のどのチームも素晴らしい事業プラン、素晴らしいプレゼンテーションです。
他チームと比べればSEESEは、マーケットが小さく、地味なアイデアです。しかし、SEESEは宇宙開発を加速するために重要な役割を担うという強い自負だけはありました。
そして表彰式、JAXA賞でSEESEの名前が響きます。
これからのこと
JAXA賞を受賞したSEESEの2人と、これからどうするのか話をしました。
もちろん、事業化に向けて動き出していくとのことです。早くもいくつかの事業者から連絡もいただいているようです。
事業化の形はこれから検討していくことになりますが、おそらく可能性として高いのは起業でしょう。棚田は今年の春からJAXAで働いており、永井は大学生です。2人ともまずは兼業でSEESEの事業化に取り組んでいくとのことです。まずは法人化ですね。そして資金調達を目指して活動していくことになるでしょう。
ABLabは引き続きSEESEの事業化を後押ししていきます。
ABLabには、様々な職種のプロフェッショナルが集まっています。ビジネス開発、エンジニア、デザイナー、広報、マーケティング、営業、様々なスキルセットが揃っているのです。人的リソースや当初の活動資金は、ABLabで強力にバックアップしつつ、資金調達に向けて準備を整えていくことになるでしょう。
SEESEによって日本の宇宙産業をブーストするべく、これからますます忙しくなりそうですね。
まとめ
環境試験設備のマッチングサービス「SEESE」が生まれ、磨かれ、そしてS-Booster 2019でJAXA賞を受賞するまでの裏舞台をご紹介しました。
棚田と永井の2人は本当に頑張っていました。それを見守っていたABLabメンバー一同、本当に嬉しく、そして誇りに思っています。
しかし、これは始まりの物語。ここからが本当のスタートラインです。SEESEの事業化に向けて、2人の挑戦は続きます。そしてABLabもまた、皆で2人の後押しをしていきたいと思います。
最後になりましたが、メンターを務めていただいた石田真康様、黒川宏己様、大段徹次様、そしてS-Booster関係者の皆様に心より感謝申し上げます。引き続き、SEESEへのお力添えをよろしくお願いします。
投稿者プロフィール
- 1983年、福島県生まれ。IT業界で約10年マーケティングの経験を積んだ後、ファンブック株式会社を設立し独立。2018年、当時小学1年生の息子と宇宙の勉強を始めたことがきっかけで、宇宙ビジネスの潮流を知り、半年後に宇宙ビジネスコミュニティ「ABLab」を創設。「地球上のすべての業界を、宇宙産業に巻き込む」というビジョンを掲げ、異業種から宇宙に挑戦する人や企業を支援し、事業創出と人材輩出に取り組む。