【開催レポート】ABLab定例会 「宇宙技術の地上転用」(2019/1/24)
2019年1月24日に「宇宙技術の地上転用」というテーマで定例会を行いました。外部講師として、株式会社フューチャーラボラトリ代表の橋本 昌隆さんをお招きし、web上だけでは知り得ないような内容から参加者の進路相談まで、非常に実りのあるイベントとなりました。
橋本さんは、2015年に発足したJAXAの宇宙探査イノベーションハブという宇宙技術と地上技術の橋渡しをする部署にも参与として所属しており、これまでに様々な産学官における事業創出、人材マッチングを行なってきた方です。
代表からのメッセージ – futurelaboratory フューチャーラボラトリ
今回のイベントでは、そうした行政から民間大手、大学機関、ベンチャーとも深く関わって来た橋本さんから現在そして今後の宇宙事業開発におけるイノベーションの起こし方についてお話しして頂きました。
現在進行形の具体的事例も多く紹介していただきましたが、本記事では特に宇宙探査イノベーションハブ周りを中心に書いていきたいと思います。
宇宙探査イノベーションハブとは
様々な異分野の人材・知識を集めた組織を構築し、これまでにない新しい体制や取組でJAXA全体に宇宙探査に係る研究の展開や定着を目指しています。
「広域未踏峰探査技術」「自動・自律型探査技術」「地産・地消型探査技術」の3 つの研究分野を中心に新技術に取り組んでいます。
「宇宙探査イノベーションハブ」では、日本発の宇宙探査におけるGame Changing(現状を打破し、根本的にものごとを変えること)を実現する技術を開発し、宇宙探査の在り方を変えると同時に地上技術に革命を起こすことを目指しています。
世界的に月面探査や月拠点構築に力を注ぎ始めている今、JAXAも月・火星探査へ向けて動き出しています。しかし月面での作業(建てる・作る・住む・探る)に関しては経験値が不足しているため、JAXAだけでなく産学官での連携が欠かせないとのことです。
民生技術の募集
通称、「TansaX」で呼ばれるこのハブは随時、民間企業や大学機関からRFI(情報提供要請)を受け付けており、(宇宙探査に関する要望とは無関係に)”イノベーション”につながる可能性がある技術情報を募集しているそうです。
また、RFIや実際にJAXAで抱えている課題を元に年に1回、RFP(研究提案募集)を実施しています。
その内容は大きく4つあり、それぞれでアイデアベースのものからピンポイントな課題解決まで幅広く募集しています。
(1)広域未踏峰探査技術
月面探査時に用いるロボット技術。
多数のロボットを分散させ広範囲を高密度で調査する。
(参考資料:広域未踏峰探査技術)
Ex)複数小型ロボットを用いた確率的環境探査システム(株式会社竹中工務店、中央大学)
(2)自動・自律型探査技術
月面基地を無人で建設するための自律・遠隔操作の技術。
高度なICTや環境認識技術が必要とされる。
(参考資料:自動・自律型探査技術)
Ex)持続可能な新たな住宅システムの構築(ミサワホーム株式会社)
(3)地産・地消型探査技術
必要物資を地球から運ぶのではなく、現地で調達・加工する技術。
(参考資料:地産・地消型探査技術)
Ex)氷から水をつくるマイクロ波凍結乾燥技術(マイクロ波化学株式会社)
(4)共通技術
宇宙探査活動に共通して必要となるエネルギー、移動、通信技術等で、地上用途にも使える技術を開発する。
Ex)高効率・低コスト・軽量薄膜ペロブスカイト太陽電池デバイスの高耐久化開発(桐蔭横浜大学)
(ちなみにRFIやRFPは個人でも投稿できるため、企業内で上層部の許可などは特に必要ないらしいです。)
一見地味な技術でも、実は宇宙開発業界では喉から手が出るほど欲しい技術だった、なんてこともよくあるそうです!少しでも可能性を感じたらとりあえず応募してみるのもいいかもしれませんね!
基礎研究と商用化の間を埋める
宇宙探査イノベーションハブはもうひとつ重要な役割として、大学や研究機関が持つ技術のタネを商用化させるために、技術支援や試験設備の貸与、資金面でサポートをしています。
JAXAとしては、大学などが持つ宇宙でも使える革新的な技術・パーツを、まずは地上産業で普及させることで安価で大量に生産できるよう支援していき、最終的に格安で宇宙機器に転用する、というような長期的でwin-winのサイクルを描いているようです。
宇宙ビジネス競争で生き残るには地上と宇宙のハイブリットビジネスが求められる
宇宙ビジネスの波が来ているとは言え、宇宙開発は依然ニッチな産業なため、衛星やロケットの部品をゼロから開発し販売していくのはコストの割にリターンが少ないのが現状です。小型衛星の需要は今後急速に増加していくと予測されていますが、それでも2030年において世界で数1000機/年であり、自動車の1億台/年と比較すると市場は小さいことが分かります(Small-satellite Launch Services Market, Quarterly Update Q1 2018, Forecast to 2030より)。
そこで、将来的な宇宙用の技術が地上の産業でも使えないか検討し、 まずは地上ビジネスとしてスケールさせていく、宇宙と地上のハイブリットビジネスが持続的な経営をしていく上で重要とのことです。
幸い日本には信頼と実績のある様々な分野のメーカーが数多く存在し、また世界に比べ大手民間企業の宇宙分野への関心が高いと言われています。
宇宙だけでなく身近な分野へも視野を広げることで、宇宙機器を実用化するための技術開発資金を得るだけでなく、企業として継続的に安定した収益を見込める可能性が高くなります。
まとめ
今回の定例会では、株式会社フューチャーラボラトリ代表 兼 JAXA宇宙探査イノベーションハブ参与の橋本さんをお招きし、現在の宇宙産業の構造を行政・民間の両視点から整理し、多くの具体例と共に今後の宇宙ビジネスのあるべき形についてお話しして頂きました。
宇宙開発はこれまで政府主導で行ってきたため、JAXAにしかない技術的な知見・経験は積極的に民間へ受け渡していく必要があります。逆にJAXAには無いような民間の技術をJAXAに取り入れていくことで日本の宇宙探査分野の更なる発展が望まれます。
宇宙探査イノベーションハブはそうした政府と民間の技術・事業開発の窓口となっているとのことでした。
また、幅広い分野で数多くの人材をマッチングし、新しい事業を創出されてきた橋本さんによると、現状まだまだJAXAと新興ベンチャーを始めとした民間企業の技術交流は足りていないようです。
ABLabとしても、こうしたBizDevとTech領域の両者を結ぶ場や仕組みを作っていくことで、日本の宇宙産業発展に貢献していければと思います。
投稿者プロフィール
- ABLab創設者の一人。大学院時代は大質量ブラックホールについて研究。 現在はリモートセンシングに関する仕事に従事。日本の民間宇宙産業発展に貢献したいと思い、ABLabに。S-Booster 2019にてJAXA賞を受賞し、小型衛星試験場のシェアリングサービス「SEESE」の事業化に向けて鋭意活動中!