火星ヘリプロジェクトを引っ張る大学生リーダーにインタビューした!

火星

ABLabには、火星探査を目指して新規的な技術を持つ探査機の開発をしているプロジェクトがあります。

その名もThe Martian Project。

このプロジェクト、実はリーダーが現役大学生なのです!

今回はそんなスゴいリーダーである阿依 ダニシさんにお話を伺いました。

阿依 ダニシさん

筑波大学4年生。
火星でヘリコプターを飛ばすという飛行型の探査機の開発をしている。
研究ベースでの実験や機体自体の開発を軸に活動している。

火星ヘリの魅力って?

どのようなきっかけで火星ヘリに着目したのでしょうか。

阿依さん

元々宇宙飛行士を目指していて、中でもまだ誰も到達したことがない火星に行ってみたいという目標を持っていたことが大きいです。

そこで大学一年生の頃から火星探査をテーマにして研究に携わってみたいと思いました。
初めは走行型ローバーを開発してみたり、ただ火星探査について調べてみたりしようと考えていましたが、火星での課題や明らかになっていない謎を調べていく上で飛行型探査が着目され始めていることを知ったのです。
非常に新規性があったので、できるところまでやってみることにしました。そうするといくつか結果が出てきたんです。

そうなのですね。何年も前から飛行型探査が着目されていたのには驚きました。
飛行型探査への移行にはどのような背景があるのでしょうか。

阿依さん

これまでの探査は世界的にも大型の走行型探査機が主流で、比較的着陸しやすい場所に絞ってそこを詳しく調べるという方法をとってきました。ただ探査してきた結果として、火星には様々な過去の姿があっただろうということがわかってきたんです。

このようにまだ解明されていない謎を知るためには、色々な地点に行かなければいけません。ですのでシンプルなデータだけでも良いので広範囲での情報が欲しいというニーズが高まっているのです。

広範囲での探査では走行型よりも飛行型の方が良いということなのですね。

阿依さん

そうなんです。走行型のローバーだとクレーターなど越えられない壁もあるし、そもそも着陸させるのが難しい場所もあります。ですので飛行型の方が別の場所まで行ける点で便利です。
実際に、NASAが2012年に火星ヘリの開発に乗り出し、2021年に火星でヘリコプターを飛ばしました。

ですがまだベストの飛行方法が定まっていないので何か一つ明らかにできればと思って開発を進めています。

火星ヘリの技術はかなり難しい!

火星では大気が薄いので飛行するのはかなり難しい印象があります。実際にはどうなのでしょうか?
火星ヘリ開発において難しいポイントなどはありますか?

阿依さん

そうですね。第一の問題は大気の薄さです。大気は一応存在しているので理論上飛べはしますが、やはり大気が薄すぎるんです。

地球と比べて重力は約1/3ですのでそこはメリットとして扱いますが、大気のデメリットの方がメリットよりも大きいですね。

何とかして薄い大気の中飛ばなければいけないというのが一番大きな課題です。

やはり薄い大気がネックなのですね。どのように解決しているのでしょうか。

阿依さん

基本的な考え方では大きな羽根を一発回すというのが一番わかりやすいです。しかしそうするとモーターの重さが重くなってしまい、バッテリーをかなり使うことになります。

ただ逆に羽根を小さくしても今度はそのぶん持ち上げる力が弱くなって、浮き上がっても飛ばないんです。

最適な形状をした羽根に最適なモーター、最適なバッテリーを全て加味してなんとか飛び上がることができます。今のところはトライアンドエラーを繰り返すしかないですね。

難しいのですね。具体的にはどのような飛行方法がありますか?

阿依さん

飛ばす方法は色々あります。例えば飛行機のような固定翼を上空から滑空させる方法もありますし、ハエの羽を模倣したロボットを作る方法、さらには気球という案もありますよ。
なので色々なものを検証して試しています。

一番のおすすめの飛行方法はありますか?

阿依さん

私が着目しているのは交差反転というもので、2枚のブレードを交差させて回して飛ばす珍しい方式です。

実は実機としても活用されていて、主にアメリカのカマン社のKMAXというヘリコプターに使われています。実機での用途を見てみると、山岳地帯の林業に利用されていたり災害救助に活用されていたり、地球上の中でも安定して飛行するのは難しそうな環境で重い荷物の運搬に使っています。

そこに着目して薄い大気を持つ火星ではパワーが必要になるので、もしかしたら火星でも使えるかもしれないと考えて交差反転の実験から検証まで全部やって本当に使えるかどうかというのを試しています。

そうなのですね。地球上での使用例が少ないのはコスト面や技術面の問題なのでしょうか?

阿依さん

地球上でKMAXしか使われていないのは、アメリカの会社の専売特許になってしまっていて情報が公表されていないことが大きいです。
またすでに一般的なヘリコプターが様々な用途で使われてしまっているので他の技術に関してはあまりニーズがないということも挙げられます。

NASAの火星ヘリコプターの開発の際にも交差反転の技術は詳細に考えなかったみたいですね。

確かに、ニーズありきな面があるのには頷けます。でも逆に火星探査としては交差反転式ヘリがメジャーになる可能性もあるということですね。

阿依さんの火星ヘリのPV

火星の縦穴を調べたい!

火星で探査する場所としてはどこを考えられていますか?

阿依さん

縦穴で探査をしたいです。火星には縦穴と呼ばれる穴があって、奥にも空間が広がってるだろうと想定されています。縦穴の空洞では風化の影響を受けないので保存状態が良いと言われているのです。

またこの縦穴は着陸が難しい地点に多く、特に大型の走行型ローバーだと近づくことも厳しいです。
一方でヘリコプターはその穴に近づくことはできますが中に入ってしまうと気流の関係で墜落してしまう恐れがあります。
将来的には2輪式の小型探査機をヘリで持って行き穴に落として探査できれば嬉しいですね。

それぞれの探査機の良いところを活かしながら探査ができるのですね。

阿依さん

はい。僕個人としても日本にも縦穴に模した場所があるので、現在そこでの実験に参加させてもらっています。開発機を下ろして内部の様子を写真で撮ったり、空洞の奥まで侵入させたりするのですが、通信をロストして動かなくなることもあり失敗続きですね。わかったことは空洞の奥がかなり広いということくらいでした。

今後は空洞の奥まで調べることができたという結果を出して、他の惑星でも同じ探査方法を使えることを証明したいです。

日本でもそのような縦穴があるのですね。どの程度の大きさなのでしょうか。

阿依さん

静岡にあるのですが、かなり大きくて、最大直径24m、最深で15mくらいだと思います。

ただこの縦穴での実験は難しいので、今後は海外で探査してみようと思っています。海外だとアメリカの火星探査基地の他に、イタリアと韓国にも似たような縦穴がありそうだという話が出ています。

海外での実験も楽しそうですね。頑張ってください!

プロジェクトについて教えてください!

どのようなきっかけでプロジェクトを作りましたか ?

阿依さん

元々は僕一人で他大学の知り合いの方と連絡をとりながら研究開発を進めていたのですが、同じ研究をしているコミュニティを知らなかったという弱点がありました。
そんな中、SNSを通じて同じようにドローンに興味があるというABLabの方に、東京でのABLabの集まりを紹介してもらったんです。参加してみると、それまで全くイメージがつかなかったことに対して挑戦している人がいました。
そこでデザイナーさんと協力することで火星ヘリの開発を新しい次元に発展させることができるんじゃないかと思い、プロジェクトを立ち上げることにしました。

素敵なご縁があったのですね。ABLabには色々な知識や繋がりを持っている人が集まっていますよね。
プロジェクトとしては具体的にはどのようなことをされているのでしょうか。

阿依さん

かなり研究ベースになりますが、僕は浮き上がる揚力を比較する研究実験をしたり、四角に足をつけたような実験機を作ったりしています。
プロジェクトではデザイナーとエンジニアが力を合わせることで、より近未来的な形にデザインされた新しい機体の開発をしています。

デザイン設計をしていく上で、元々の実験機から揚力など変化する部分があるかと思いますが、どのように折り合いをつけて開発していくのでしょうか。

阿依さん

そうですね、それこそ機体を開発する上で明らかにしたい課題になっています。

基礎実験装置であればNASAが開発した機体の方式と交差反転方式をほぼ同じ重さで比較検討をする実験ができるので、わかることも多いしそのまま論文にすることができます。
ですが、実際に作るとなると、NASAの機体と全く同じ形では意味がなく、交差反転の飛行方法に最適な形の機体にしなければいけません。

改良点は作れば作るほど増えて行きますし、飛ばすこと自体も相当難しくなります。交差反転方式はそもそも作っている人がいないので、部品もネットから購入して使うこともできません。
デザイナーの方と協力して一つ一つの問題に挑戦しつつ機体を改良して作り直すことを繰り返しています。

なるほど、かなり大変な作業だと想像できます。メンバーはどのくらいいらっしゃるのでしょうか。

阿依さん

基本的にはエンジニアの僕とデザイナーの高野さんの2人で開発をしていますが、他にもたくさんの方々にデザインについて教えていただいています。開発についても親身に教えてくださる方がたくさんいらっしゃいます。

様々な関わり方があるのですね。プロジェクトとして他にはどのようなことをされていますか?

阿依さん

去年の夏に福島のフェスタで実験機やモデル機を展示してプレゼンをさせていただく機会がありました。

このような場で発表することでその後に声がかかることも多いのでとてもありがたく思っています。実際に宇宙業界に携わっている人から声がかかって、新しいことやってみないかというお誘いを受けたこともあります。
今回だと交差反転のヘリを開発する上で流体の解析を行いたいと相談したところ、専門の方から後に意見をいただくことができました。

情報交換の場にもなっているのですね。プロジェクトの加速にはかなりのメリットがありそうです。

阿依さん

そうですね。他にも、フェスタなどの場に物を出さないといけないとなると、それに向けて一生懸命研究開発が進みます
発表しなきゃいけないと結果を出そうとするので、効率的に進んでいくように感じています。

福島のフェスタにて

今後について

小学校の頃から宇宙に興味を持っていて、鉱物学の研究をしている父の影響で研究をやってみたいと思うようになった阿依さん。

そんな中、もっとロマン溢れるもの、本当に面白いものに手を出したいと思って辿り着いた先が宇宙でした。

インタビューの最後に、プロジェクトの今後の展望や宇宙・火星探査への想いをお聞きすることができました。

今後の目標について聞かせてください。

阿依さん

機体がまだ飛んでいないので、まずはしっかりと計画を練って機体を飛ばしたいと考えています。

後は、各地で実験をする機会があるのですが、毎回実験機を作って持って行ってるんです。今年はその実験機を皆さんと協力して作っていくことにも挑戦していきたいです。
去年できなかった課題を今年は解決できればと思います。

次の進学先についてもお聞きしても良いですか?

阿依さん

4月からは東北大学で研究を続けていく予定です。


元々東北大学に知り合いがいたのもありますが、東北大学では惑星探査が盛んなのです。HAKUTOという月面探査のローバーを開発している先生の研究室が自分の研究とマッチしていたので、これからはその先生のもとで探査機の開発をやっていこうと思っています。

ABLabのプロジェクトとしてもどんどん加速しそうで今後が楽しみです。
新しいメンバーも増えたら良いですね。具体的にはどんなメンバーに入ってきて欲しいですか?

阿依さん

実際に動かす機体の開発をしているのが今のところ一人なので、一緒に開発をしてくれる人が欲しいです。
是非とも一緒に機体を飛ばすということを目標にして、役割分担をしながら開発に関わっていただければと思います。

最後に、阿依さんにとって火星探査とはなんでしょうか。

阿依さん

人類の未来だと思っています。

人類がそこに到達するだけですごく大きな実績になるし、将来的には人間がどんどん火星に行くような時代がいずれ来るだろうと思っています。

この大きな未来に向けた第一歩になるような開発をこれからもしていきたいです!

まとめ

今回はThe Martian Projectのプロジェクトリーダーである阿依 ダニシさんにお話を伺いました。

大学の学部生という立場では、素晴らしい研究開発を行っていても、企業とタッグを組みにくいなどの現実もあるよう。

ただ一方で、学部生だからこそ活動に興味を持ってくれる人もいて、共同研究として声がかかることもあるとのことでした。

そんな阿依さんの活動には勇気づけられますね。

これからの活躍も応援しています!

ABLabが、宇宙ビジネスの検討・挑戦を
力強くサポートします

投稿者プロフィール

ゆい秘書/広報
ABLabの秘書兼広報。
現役大学生ですが、宇宙へのアツさは人一倍!
「たくさんの人に宇宙、宇宙ビジネスの魅力を伝えたい」という思いで日々、運営業務や情報発信のお手伝いをしています。