【宇宙でのヒトの身体の変化3】骨量減少と筋委縮

こんにちは、外科医の後藤です。宇宙空間でのヒトの身体の変化について、今回は宇宙に出て10〜14日ほど滞在してから起こる身体の変化として、骨量減少筋萎縮についてご説明します。

無重力では、地上での10倍の速さで骨が減る

宇宙滞在が長期化すると進行する重要な身体の変化として、骨量の減少があります。

ヒトが体を支えたり運動するのになくてはならない骨ですが、他にも以下の働きがあります。

  1. 血液・免疫細胞を産生する
  2. 外部から脳や内臓を保護する
  3. 生命活動に不可欠なカルシウムを貯蔵し、必要時全身に送り出す

正常な骨組織では、古い骨を破壊する細胞である破骨細胞と、新しい骨を形成する骨芽細胞が存在し、これらの均衡が保たれています。このバランスが崩れて骨量が減少する病気の代表が「骨粗鬆症」であり、骨がスカスカになって骨折などの危険が高くなります。

破骨細胞(青)と骨芽細胞(赤)が均衡して働くことにより、骨組織のバランスが保たれる

 

正常な骨組織(右)と骨粗鬆症(左)のイメージ

 

地上では加齢や長期間の寝たきり状態が骨量減少につながり、90日間の寝たきり実験では荷重がかからない上肢の骨ではほとんど変わらない一方、日常で荷重がかかる大腿骨の骨密度はぐんぐん低下して、実験終了後も回復に1年かかることが分かっています。

宇宙滞在での骨量減少はさらに顕著であり、やはり大腿骨など下肢骨で劇的な骨量が減少が見られ、その減少速度は地上での骨粗鬆症発症時の10倍にも達するとされています。また、カルシウムが骨に貯蔵されずどんどん排泄されてしまい、その結果尿路結石を起こしやすくなります。

無重力では、骨にカルシウムが貯蔵されにくくなる

地上で長期的な寝たきり状態により体に重力負荷がかからないと、破骨細胞が増加して骨吸収が促進することにより、骨量が減少することが分かっています。

では、無重力状態の宇宙ではどうでしょうか?

2016年に国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟で、35日間のマウス飼育実験が行われた結果では、やはり劇的なマウスの骨量減少とその骨組織では破骨細胞の増加が確認されました。

骨量維持のために切り札となる薬が、骨粗鬆症の治療薬であるビスフォスフォネートです。この薬には破骨細胞を抑制する働きがあり、骨量増加と骨折発生率低下の効果があるため、宇宙飛行中の骨量減少と尿路結石のリスクを軽減することができるか、JAXAとNASAの共同実験が行われました。その結果、ビスフォスフォネート剤を毎週服用し、骨と筋肉を刺激する運動を行い、カルシウムやビタミンDをきちんと摂取すれば宇宙飛行中の骨量減少と尿路結石のリスクは軽減できることが確かめられました。

無重力では、筋力は必要とされず廃用性萎縮を起こす

骨量減少に加えて、宇宙滞在では1日1%の筋肉減少が起こります。これらは1〜2週間の場合であり、長期になれば次第に減り方は少なくなりますが、3か月の宇宙滞在では30%もの筋肉減少が報告されています。

この数字は筋肉の断面積で見たもので、筋力は断面積に比例するので地球で90kgのベンチプレスができる屈強なアスリートも、3か月宇宙で過ごした後には30kgしか上げられなくなるということです。これはジム通いが好きな方にはゆゆしきことですね。

長期宇宙飛行では、宇宙飛行士は心肺機能と筋力を維持するために、有酸素運動(トレッドミルと自転車エルゴメーター)と筋力トレーニング(改良型抵抗運動機器)を中心に、1日2時間週6回の運動トレーニングを行っています。さらに帰還後45日間は、飛行前体力復帰のためリハビリテーションを行うとのことです。

3か月の宇宙滞在では、30%もの筋肉量減少が起こる

 

長期宇宙滞在による骨量減少や筋委縮。数日間の宇宙旅行レベルでは大きな問題にはなりませんが、将来、人類の月面や火星居住などには大きな影響を与えそうです。居住空間を人工重力として解決するのか、宇宙での骨量や筋力維持の新たな方法が考案されるのか。有人宇宙開発を進めるに当たり、避けては通れない問題です。

参考文献

  • 宇宙医学入門 マキノ出版
  • 生体の科学69(2): 133-137, 2018
  • 宇宙航空環境医学Vol 49, No, 4, 2012

 

投稿者プロフィール

後藤正幸
本業は脳神経外科医。日々の臨床に力を注ぐ一方、「宇宙の力で医療を変える」ことを目標に活動中。一般の方向けに、宇宙医学のわかりやすい解説と発信を目指している。

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